第11話 桜花
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艦長執務室にて
「やれやれ、航海も終わり、後処理も概ね片付いた。そろそろ休暇が取れるかな」ヤタ艦長の桜井良子少佐はそうつぶやいた。
もう夫ともしばらく会っていないし、休暇が取れたらたっぷり夫婦としての交流をしよう。そろそろ子 供も作らなくてはならないし、と考えていたら、「姉さん久しぶり」と突然一人の女性が現れた。
「ノックぐらいしなさい。幸子」「いいじゃない姉妹なんだから」
「まだ軍務中です」
「はっ、失礼しました。桜井少佐」おどけるような声で桜井幸江大尉は言った。
「もう、わざとらしい。いいわよ普通の口調で。ところで守君は元気?」
「姉さん、結婚してすぐ航海に出てしまったからね。姉さんがいない間、私がたっぷりかわいがっておいたから、すこし疲れているかも」
「次は私の番だからね。しばらく私専用にするから」「え~それはないよ。2人で共有でしょ。守君は私たち姉妹の夫だよ」
「まあ、守君には頑張ってもらいましょう。まだ若いのだから、2人を相手にしても大丈夫でしょう」
「ところで姉さん本題なんだけど、独立戦争の時の遺物って何かあった?軍事博物館の館長から確認してくるようせっつかれて」
「ああ、独立戦争の遺物でしょ。何にもなかったわよ。いろいろ探した探したけど、あったのはガラクタと漂流していた逃亡者一人だけ」
「逃亡者?」
「そう、なんか古い船を再利用して作った葉巻型の一人用の船だったわ。おまけに放射能反応まで出たから凍結処理中よ」
「放射能反応!乗っていた搭乗員は?」
「それが記憶喪失で、仮に船の名前を付けたわ。かなり使える男でね。おかげでいろいろ助かったわ。艦に乗っていた連中も目をつけたようで下船の際には、3人も恋人を作っていたわ」
「すごいわね。どこかの名家の出かしら。そうすると婚約者もいたはずだからあとでもめ事にならない?」
「それがすぐに確認したのだけど、該当する者がいなかったのよ。外国人の可能性が高いのよね。ただ、姿形や、言動がヤマト人ぽいのよ」
桜井幸子大尉は少し考えた後、こういった。
「姉さん、その逃亡者の乗っていた船をみせてくれない?」
「いいわよ。本人に聞いたら船の中においてあるものは返してほしいけど、それ以外は始末してほしいといわれているから」
ふたりはヤタの船倉にある船を見に行った。
「え!これは、桜花じゃない」桜井幸子大尉は叫んで、船を調べ始めた。「間違いない。11式だ。本物よこれ!シリアルナンバーは01。すごい、牟田中将の船だ」
「ちょっと、放射能反応があるって。うかつに近寄らないで」
「大丈夫よ姉さん。凍結処理してあるし、反応そのものはすごく微弱じゃない。これすごいわよ。200年前の本物よ。うちの博物館の200年祭での目玉になるわ。ちょっとまって、姉さん。搭乗員がいたと言っていたわよね」
「そうよ、20代前半ぐらいの男が一人」「操縦席に入れさせて!」
操縦席へのピットを開けると、大尉はそこに潜り込んでいった。
「姉さん!姉さん大変よ!」
「どうしたんだ。そんな大声で。」
「乗っていたのはこの人?」
桜井幸子大尉は一冊の手帳を開けて、姉に見せた。
「そうそう、この男。」
「わー、すぐに連絡取れるかな。これ、世紀の大発見だよ」
「どういうこと?」
「この船に乗っていたのは、神風特別攻撃隊鳳隊副隊長九頭大尉だよ。これは、ヤマト独立軍の軍務手帳で、身分証明書にもなっているんだ。おそらく敵襲を受けたときになんらかの事情で牟田大佐の船に乗ったのね。そして冷凍睡眠で200年さまよっていたのだと思う。もし、九頭大尉だったら、そのひとから直にいろいろ聞けたら歴史上の謎が解明できるかもしれない。本当に裏切り者だったのか、それとも何か事情があったのか、さらに独立戦争時のヤマトの生活なんかもわかることになるんだよ。歴史学者にとって一生に一度あるかないかの大発見だよ」
「わかったわ。すぐに連絡を取ってみるわ。」
みずほ船内にて
みずほの船内をチェックした我々は、大量の物資や希少鉱物が眠っていることを確認した。
「ねえ、これだけあれば、一生遊んで暮らせるわよ。新しい星を開発するより、地球連邦あたりに行って、みんなで暮らさない?」ミィが言った。
「それも選択肢の一つとしてあったが、何せ私はお尋ね者だからな。大和連邦の外交関係もこの世界の状況もよくわからないからな」
「今、大和が小競り合いをしているのは大華人民国だけよ。でもそうよね。あなたが外国でどういう扱いになるか未知数ですものね。下手すると捕まってヤマトに売り渡されてしまう可能性もあるものね」
「ヤマトに捕まったらどうなるかわからないからな。死刑か無期拘禁か、少なくともただで済むとは思えないな」
「そうよね。懸賞金付きのお尋ね者ですものね」
その時、通信機に反応があった。
「なんか通信来ているよ~」アイが言った。
「どこからだい」私は聞いた。
「本部からみたいだ」マイが言った。
思わず私はミィと顔を見合わせた。
「ばれたかな」私は言った。
「その可能性は高いと思う。わざわざ休暇中のなりたて下級将校と下級兵士に連絡が来るなんて戦争がはじまった、若しくは我々個人に用事があるかだもの」
「戦争が始まった形跡はなし。とすると個人的な用事か」
「アイとマイはあり得ない。私は幹部候補生だけど緊急に呼び出されることはあり得ない。とすると、間違いなく九頭あなたね」ミィが言った。
「とすると桜花で何か見つかって、それの確認だな。とりあえず出てみるか」
私は恐る恐る通信に出た。
「はい、ヤタです」
「ヤタか、私は艦長の山口だ」
「艦長、何の御用でしょうか」私は恐る恐る聞いた。
「すまないが、すぐシンキョウトに戻ってきてもらえないか」
「なにかあったのですか?」
「ちょっと確認したいことがあってな」
「現在われわれは休暇中です。通信では解決できない問題ですか」
艦長は少し考えた後、「実は君が乗っていた船の中から、手帳が見つかってな」といった。「手帳ですか」やばい軍隊手帳が見つかった。
「ああ、その手帳を見ると、九頭一史大尉の手帳だった」
「九頭一史?あの200年前の人間ですか?」
「ああそうだ。君の乗っていた船も桜花という船で、君はもしかしたら九頭一史本人じゃないかね」
「私は記憶があやふやなので、よく覚えていませんが、そんな200年前の人間がこの世にあらわれたというのですか。そもそも冷凍睡眠装置はそんなにもつものなのですか?」なんとか時間を稼がなくては。
「いや、そんなに長い冷凍睡眠はよっぼどいい機械でないと難しいらしい」山口艦長は同意するように言った。
「記憶がないのであやふやですが、記憶を失う前の私はきっとヤマト独立軍にあこがれて、過去の資料を見て船を作り、適当な名前で手帳を作ったのではないでしょうか」畳み掛けるように言った。
「九頭一史が生きていたということより、そちらのほうが可能性は高いな」山口艦長は自信なさげに行った。
「艦長、もし可能であれば、休暇が終わってからではだめでしょうか。彼女たちも休暇を楽しみにしているので、できればこのままとんぼ返りは避けたいのです。どうかお願いします」
「そうだな。休暇を取り消ししてまで至急確認を求める事項ではないな。分かった。休暇終了後でいい。それでは休暇を楽しんでくれたまえ」通信が切れた。
「みんなごめん。どうも私のことがばれたらしい。リゾートはお預けだ」私はみんなに言った。
艦長執務室にて
「4人ともいっしょにいるようだ。提出された旅行届だとどうもサイパン海域に観光に行っているようだ」
「サイパン?」桜井幸子大尉はいぶかしげに言った。
「ヤタ少尉とアイ、マイ、ミイの3人で行っているので、婚前旅行かもしれないな。まあ、そういうわけで、休暇が終わったら戻ってくるからそれまで待ちなさい」
「ちょっと、姉さん、ことは至急を要するのよ。もし本物の九頭大尉だったら、歴史的大発見なのよ」
「そうはいっても、本当に本人かどうかとても怪しいしな、そもそも冷凍睡眠で200年も持つものなのか?」桜井良子少佐はいぶかしげに言った。
「それはかなり難しいけれど、高性能の睡眠装置だったら可能だわ」桜井幸子大尉は更に言いつのった。
「それに普通の船だったら何で放射能反応なんてするのよ。当時の桜花は核反応爆弾を積んでいたから、放射能反応が残っていても不思議ではないわ。それに、ヤタの特殊性よ。訓練生とはいえ、プロのパイロットと戦って勝ったのよね。流星群の中を平気で出撃できる技能を持ち、さらに大昔に失われた星図や移動時間から自分の位置を読む技術も持っていた」
「でもあの船、古い部品のつぎはぎだらけで、とても軍が作った者とは思えないぞ」
「それも証拠の一つなのよ。当時、桜花は作戦に間に合わせるために、スクラップを利用して作られたわ。なんせ設計図すらまともに残っておらず、文献等ですこしふれられているだけなのだから。でも私は何年も独立戦争の研究、特に桜花について調べてきたから間違いないわ。あれは幻の11式よ。一番最初の作戦用にだけつくられた型式で、次に製造されたのは改良された14式という形式なの。ヤタの乗っていた機体は、14式ではなく、11式で間違いないわ。私が今まで調べた11式の機体の特徴を完全に実現している機体よ。素人が作れるはずないわ。そしてそれに乗っていたであろう男が生きている。一刻も早く確保しないと」桜井幸子大尉は焦っていた。
「そんなに焦らなくても、休暇が終わったら帰ってくるのだから、もう少し待てないのか」桜井良子少佐は何をそんなに焦っているのかとばかりに問いただした。
「姉さん、もし彼が九頭大尉なら逃げ出すかも」
「なぜ、逃げる必要があるんだ?」
「彼は独立戦争時の戦争犯罪者として、永久指名手配されているからね」
「永久指名手配?」
「敵に情報を漏らし、作戦を台無しにした罪よ」
「たしか、ヴィシー要塞突入作戦のうち、神風特別攻撃隊のうち、牟田大佐の隊は途中敵の攻撃を受け全滅したのだったか、それで別の隊が無事突入を果たし、作戦を成功させたと習ったが」
「牟田大佐の隊が全滅した理由が、牟田大佐本人と九頭大尉が敵に情報を漏らしたからだということになっているの」
「ちょっとおかしくないか。だって、敵に情報漏らした結果、自分が殺されたら元も子もないぞ」
「本当は自分だけ捕虜になろうとしたが、裏切られて殺されたことになっているわ。でもおかしいことがあるの。たしかに、牟田大佐の隊が特攻攻撃をしようとしていることをヤマト独立軍に潜伏していたスパイが、誰からか情報提供を受けたことが地球連邦の記録からわかっているのだけど、その時期が牟田大佐の隊が出撃した後なのよ」
「それはどういうことだ」
「九頭大尉はもうすでに出撃していたということ。船内では無線封鎖されていたので外部への連絡ができない。それじゃ九頭大尉の息のかかった人物によるものではないかという話もあるのだけど、彼自身の家族はかなりの名家で、独立戦争の中心人物だったの。家族の誰かが裏切るなんて考えられないわ」
「それじゃ誰が裏切ったんだ」
「わからない。記録が何もないの。大尉の家族もこの事件により社会的に批判はされたけれど、戦争指導の中枢から外されただけで、現在もまだ名家として残っているわ」
桜井幸子大尉は畳みかけるように言った。
「彼から話を聞けば、この謎が解けるかもしれないの。歴史ミステリーの一つを解くカギなのよ。でも、彼はおそらく自分が指名手配されていることに気が付いている。なぜならずっと「ヤタ」という偽名を使っていたのだからね。我々が彼の正体に気づいたことを知れば、彼はどこかに逃げてしまう可能性が高い」
「分かった。彼は今ヤマト連邦の軍籍にある。逃げれば脱走罪になるし、奴の妻たちも一緒に逃げた場合、彼女たちも同様に軍籍があるから同様に脱走罪に問われることになるだろう。大至急迎えに行かそう。誰がいいか」
「それならば、彼に親しいパイロットがいたわよね。彼女たちならば彼らを説得できるかもしれないわ」
「了解した。司令部に上伸して、すぐに二人を派遣するようにしよう」
「姉さん、よろしくお願い」
2機の戦闘機がサイパンに向けて飛んでいた。
「パパひどい。私たちを置いていくなんて」「ほんと。いくら私たちが忙しいからって連絡一つなしにみんなで旅行に行くなんてずるい」二人はぷんぷんと怒っていた。
「とにかく、パパにあって、至急連れ戻せって命令だけど、なんかあったのかな」
「そうだよね。最新型の戦闘艇への搭乗許可が出たぐらいだから、よっぽどのことだよね」「これってベテランクラスでもなかなか乗れない本当の最新型だよね」「首都防衛隊でもまた、数機しか配備されていない最新型だよ」
「本当になんなんだろうね」二人は疑問を抱えながら飛んでいた。
「あ、パパから連絡があった。何回か通信送ったのに気付いたみたい」
「やあ、ユウ・ユアどうしたんだい」パパから通信が入った。
パパの顔は優しいけれど、少し怖かった。
「パパずるいよ。私たちを置いて旅行なんて」「そうだよ。どうして私たちを連れて行ってくれなかったの」「ごめんごめん。二人とも忙しいようだったから」そうパパは言いながら、目が笑っていなかった。「それで、なんで戦闘機に乗ってきたんだい」
「軍の司令部から大至急パパを連れ戻すように命令を受けたんだ」「理由は?」
「ええっと、今艦長、桜井良子少佐からのメールを送るね」「わかった。二人はそこで待機していてくれ」いきなり通信が切れた。
「あれどうしたんだろ」「わからない。いわれたとおり、少しここで待ちましょう」
しばらくすると、「二人とも指示に従ってちょうだい。操縦権限をこっちに渡して」ミィさんが通信してきた。
不思議に思いながらも、操縦権限を言われた通り九頭達に譲渡すると、戦闘機は動き始めた。しばらく飛ぶと、ものすごく大きな船が見えた。戦闘機はその船の中に吸い込まれた。
船の中に収納された戦闘機から、二人は降りるよう促された。戦闘機から降りると、マイが待っており、武装解除のうえ、両手を頭の上にのせて、並んで歩くように言われた。「ごめんね。ヤタからこうしろという指示なの」マイはすまなそうに言った。
二人が歩いて行くと、大きな広間でヤタが銃を持って待っていた。
「パパこれどういうことなの?」「まるで捕虜みたいな扱いじゃない」
「そうさ、ユウ、ユア、君たちは我々の捕虜になったんだ。いまから私の身の上話をする。私に付くか、それともヤマトに帰るか、どちらかを選んでもらう」パパの目はとても恐ろしい目をしていた。
それから、パパの本当の名前は九頭一史で、200年前の独立戦争にて裏切り者の汚名を着せられ犯罪者となっていること、私たちはパパを捕まえに来たということ、艦長からの手紙には、悪いようにしないから、直ちに投降し、ユウ、ユアに従ってシンキョウトに戻ることが書かれていたことを知らされた。
「パパって、200年前の人間なの」私たちは驚いた。
「すごく年寄りだろ」とにやっと笑って言った。
私たち二人で相談させてほしいと言ったら、パパが許可をくれた。
「どうする?」
「どうするも何もパパについてくよ」
「やっぱそうだよね」
「乗ってきた戦闘機どうする?」
「退職金代わりにもらっちゃう?」
「勝手なことをしたらまずいよ。パパに相談してみようか」
パパと一緒についていくことを言った後、戦闘機はどうしようかと相談したら、「ちょうどいいから我々全員の退職届と一緒に退職金代わりにもらっていくことを伝えようか」と笑いながら言っていた。
「でも軍の最新型だよ。もらって大丈夫かな」と言ったら、「どうせ私は指名手配犯だからね。いまさら多少罪状が増えたところで、どうってことないよ」と言っていた。
パパと私たち五人は退職届を軍に通信で送った後、みずほに乗って、姿をくらました。
軍本部にて
軍では、この6人の失踪を当初問題視した。退職届は不受理とされ、全員懲戒免職とされた。なぜなら最新の戦闘機2機が奪われたためである。
犯人たちの行方を捜したが、杳として見つからなかった。
ところが、政府・軍の上層部を揺るがす大事件が起きた。政府・軍の幹部の夫達が大量に姿を消したからである。夫が失踪した幹部たちは捜査網をヤマト全体に引いたが行方は分からなかった。このあおりを受けて、この6人の失踪はそのまま放置されることとなった。
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