第5話 雷鳥討伐
迫り来る雷光。
レイはそれに真正面から突っ込んだ。
そして直撃する寸前で空中で体を捻り、それらすべてを躱した。
はたから見るとレイが超人じみた反射神経で悉くを回避したように見えるがそれは少し違う。
確かにレイが優れた反射神経の持ち主であることは事実だが、雷速で放たれる無数の攻撃を全て躱しきることなど出来ない。
しかし、吶喊する直前に圧縮した空気を防御膜として纏う第二階位魔法圧力系魔術《気圧殻》を発動しており、これがレイを守ったのだ。
尤も耐久力は然程高くなく、真正面から攻撃を受けるのは危険なためこうして体を逸らすなりして入射角を逸らさなくては防ぎきれないのだが。
全ての雷撃をいなしたレイはそのまま跳躍。空中の雷鳥との距離を急速に詰め、刀を振るうが、高度を上げられ回避されてしまう。
そして再び放たれる雷撃。
身動きの取れない空中での一撃だったが、レイは落下しながら器用に体を捻りこれを躱すと《空気弾》で反撃する。
回避と同時に放たれた攻撃に雷鳥は反応しきれず、いくつもの圧縮空気弾をその身に受けた。
「KIIIIIIIIIIIII!」
攻撃を受けたことへの苛立ちか、威嚇するように咆哮を発する雷鳥。
ダメージは与えたようだが、致命傷には至っていないようだ。
そして、高度を維持したままお返しとばかりに次々と雷撃を放ってゆく。
それもレイは自慢の反射神経と《気圧殻》を駆使して躱し続けてゆくが、回避を続けるだけでは勝つことは出来ない。
すぐに反撃へ転じなければならないのだが、高所に座する雷鳥に攻撃を当てるのは至難の業だ。
ほとんどの攻撃が届かない上、距離を詰めようにも難しい。
だが――、
「リサ!」
それだけでリサはレイの意図を理解した。
「〈行け〉!」
詠唱とともに発動されたのは第二階位魔法植物系魔術《植物操作》。
リサの足元から数本の木の根が姿を現し、雷鳥に襲いかかる。
詠唱は魔術において術式を構築するためのトリガー。階位が上がるほど詠唱は長くなるが、術者の習熟度によって短縮することも可能だ。
極めればレイのように無詠唱での発動も可能となるが、いかんせん威力や効果は落ちるため、どんなに短くとも魔術は詠唱を行うことが推奨されている(それでもレイは発動がバレたくないからと詠唱しないことが多いが)。
自身に向かって伸びてくる根の触手に雷鳥は攻撃を中断すると回避に徹する。
疾風の如き速度で触手との距離を離しながら僅かな隙間を縫うような動きで逃れ続ける。
その姿はまるで熟練のパイロットによって操作される戦闘機のようで美しさすら感じさせられる見事な体捌きだった。
それでもこの数の触手から逃れ続けることは出来ない。遂に一本の触手が雷鳥に迫る。
雷鳥は速度を上げて突き放そうとするも前方に妨害の触手が現れ、動きが緩んでしまう。
その隙を突く形が触手が一気に距離を詰める。そして、その尾羽を捕らえようとして――、
「KIEEEEEEEEEEEEE!」
燃え尽きた。
捕縛に成功したと思った瞬間、根の触手が黒い煙を上げて燃え尽きたのだ。
「切り札を切ってきたか」
その様子を見ていたレイが独り言のように呟いた。
遥か先、蒼穹を見上げる紅眼にはその巨体に雷霆を纏う怪鳥が映っていた。
雷鳥の攻撃は主に二種類。
一つは雷撃の放射。
二つはその電気を体に纏わせた突進だ。
消費する魔素の関係で使用頻度は前者の方が多いが、脅威度は後者が断然高い。
電気を纏うことでスピードと殺傷力が上がるだけではなく、それ自体が雷鳥を守る鎧にもなる。
攻撃では回避すら許さない不可避の一撃となり、防御においては転ずればあらゆる攻撃を無効化する鉄壁の防御となる。
攻守共に隙のない、まさしく攻防一体の無敵の能力だ。
「KIIIIIIIIIIIII!」
疾風迅雷の速度で空中を駆け抜け、触手を切り裂いてゆく雷鳥。
やがて、全ての触手を焼き切るとそれまでのジグザグと方向転換を多用する動きから一転、とある一点に目掛けて一直線に向かってゆく。
「〈貫け〉――! 《樹槍》!」
とある一点――リサは即座に迎撃の第三階位魔法植物系魔術《樹槍》』を発動。螺旋槍のような形状をした巨大な樹木が雷鳥に向かって発射される。
全長は雷鳥の倍以上で幅もそれに比例するように大きい。直撃すれば身体を貫かれるどころか潰されるのは間違いないだろう。
しかし、十メートル以上もあるそれは次の瞬間には雷が落ちたように真っ二つに割れ、砕け散っていた。
分かたれた木と木の間から雷の鎧に身を包んだ凶鳥が姿を現す。
その姿はまさしく一本の槍のようで、電光石火の勢いで近づいてきているはずなのにリサの目にはひどくスローモーションに見えた。
これから少女を待ち受けるのは雷鳥の嘴で心臓を貫かれる未来。
それは誰の目からも見ても揺らぐことのない確定された死だった。
それでも――少女は揺らがない。
正面を見据えたその瞳に恐怖の色はない。
死を受け入れたわけでもない。
ただ、信じていた。この世で最も敬愛する己の主人が必ず助けてくれると。
「――《大気盾》」
それに主人は応えた。
《樹槍》で雷鳥の勢いが弱まった一瞬の隙を見逃さなかった。
すかさず第三階位魔法圧力系魔術《大気盾》を展開する。
圧縮された空気の壁がリサの前に現れ、雷鳥を堰き止めた。
それでも雷鳥は勢いを止めず、雷の突撃を続けるも《大気盾》を破ることが出来ない。
「吹っ飛べ」
そして解放。
一気に解き放れた圧縮空気が暴風となり、雷鳥を吹き飛ばす。
本来なら間近にいるリサも巻き込まれるはずだが、何故か暴風は雷鳥のみに直撃していた。
何故か。
レイが圧縮空気を解放すると同時に第三階位魔法圧力系魔術《気圧調整》を発動していたからだ。
《気圧調整》は気圧を操作する魔術。そして気圧を操れるということ風の方向を操れるのと同義。レイはこれを利用して暴風を雷鳥のみにぶつけたのだ。
「KIIIIIIIIIIIII!!」
よって雷鳥はその膨大な風量を一身に受けることとなり、弾かれるように吹き飛ばされた。
体勢は崩れ、雷の鎧を維持することが出来ず霧散する。
今が仕留める絶好の機会。
レイは止めの攻撃を放とうと手を伸ばし――、
「もらったあ!」
どこから投げられた槍が雷鳥に命中した。穂先は脳天を貫いており即死は確実だった。
「フッ、これで手柄は私のものだ」
そう意気揚々と雷鳥の死体へ近づいてゆく少年はタージ・トゥワス・インターク・セプテド。
レイと同時期に白竜騎士団へ入団した新人団員なのだが、身長はタージの方が頭ひとつ分高く、声も低い。
とても同い年には見えなかった。
「残念だったなぁレイモンド。雷鳥を討伐したのはこの私だ」
その整った顔立ちと大人びた雰囲気に似合わない下卑た笑みを向けてくる。そこからは雷鳥を討伐した喜びよりも、レイに嫌がらせを出来た喜悦の感情が色濃く出ていた。
「何を言うのです! 貴方は――」
「気にするなリサ」
レイの成果を横取りされたことに怒りを露わにするリサだが、当の本人はその行為を制止すると逆に嘲笑うような言葉をタージへかける。
「盗人が馬脚を露わしただけだ。所詮セプテド家は盗賊紛いの傭兵の出。その卑賤な性根は今も尚健在ということを末裔が証明してくれたということだ」
「……何だと貴様?」
それだけでタージの顔から笑みが消えた。
「聞こえなかったのか? ならもう一度言ってやろう。どれだけ見繕おうとも所詮お前は卑しい盗人に過ぎないと――」
「貴様我が家を愚弄する気かぁ!!」
怒声ともに引き抜いた槍を構え、その穂先を躊躇なくレイヘ向ける。
その端正な顔は怒りで真っ赤に染まるだけでなく、牙を剥く獣のように醜く歪んでいる。そこにタージ本来の美青年然とした面影はどこにもなかった。
レイとタージは同時期に兵役に参加し、共に訓練を受けていた。つまり同じ屋根の下で同じ釜の飯を食べた関係なのだが、その仲はめっぽう悪かった。
タージは自信家で自分が一番でないと気が済まないタチなのだが、訓練での成績は常にレイの後塵に拝していた。
それがタージのプライドを大きく傷付け、何かとレイに突っかかるようになったのだ。
レイもレイでそんなタージを煙たがり攻撃的な態度を取り続けた結果、双方の関係が改善に至らないまま今日まで続いている。
「今の言葉すぐに訂正しろ……そうすれば命だけは奪らないでおいてやる……ッ!」
「俺は事実を述べただけだ。訂正する箇所などどこにも見当たらない。そもそも、お前が俺に勝てたことなんて一度もないだろ」
馬鹿にしたような態度を崩さないまま刀を構えるレイ。
正直、手柄を横取りされたことなどどうでも良いが、それでタージに調子に乗られるのは癪だった。
これを機に殺してしまおうか。
都合の良いことに目撃者は誰もいない。他の団員と同じように雷鳥に殺されたことにすれば何の問題もないだろう。
苦しませながら殺してやる。急所を外しながら少しずつ痛ぶり、喚き声が「殺してくれ」という懇願に変わるまで――
そんな物騒な考えが沸き上がってきたその時だった。
「!? ――リサッ!」
突如、驚いたように目を見開いたかと思うとリサに覆い被さり、地面に押し倒した。
まるで何かから庇うように。
そこからたったコンマ一秒後だった。
正面から鋭い斬撃が振るわれ、レイの背中を掠めた。
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