第15話 脱獄を目指して
ミカが要求を呑むとレイは約束通り、この監獄についての情報を話した。
絶海の孤島に重警備、そしてネズミ一匹すら逃さない監視システム。この絶望的な状況を知った時、どのような反応をするのか、それをレイは少しばかり楽しみにしていたのだが――、
「なるほど……やはりここはボトムレス監獄島だったのか」
ミカの反応は思いの外、冷静だった。
それどころかここがボトムレス監獄島とであると勘付いていたような反応だった。
「分かっていたのか?」
「いや、私たちは何も分かっていなかったさ。だが、彼女――シュザンヌがそう推測していたんだ」
そう答えるミカの視線の先には未だ一言も発さないシスターの服の金髪少女シュザンヌがいた。
「服装を見て貰えば分かる通り彼女は聖職者でね、一般にはあまり知られていないここの存在を知っていたんだ」
『しかし、流石に内部の情報までは知りませんでした。それが分かったのは大いに意味がある』
感情を覗かせない口調でシュザンヌが初めて喋った。
だが、レイはそこに違和感を覚えた。
それが何なのかはすぐに分かった。
声の主――シュザンヌが口を開いていないのだ。
更に言うと声の聞こえ方にもおかしな点があった。
当然だが、音とは耳穴から鼓膜を振動させて、頭に伝わってくるものだ。
しかし、シュザンヌの声はそう言った音ではなく言葉の情報として、直接頭の中に入ってくるような感覚があった。
つまりこれが指し示すことは――、
『もう気が付いたんですね』
口を開けないままシュザンヌは感心したように言った。
『これがわたしの能力《精神感応》。念じることで自分の思考を直接相手に伝えることが出来る。わたしの一方通行ではなく、あなたたちの考えていることも同じようにわたしへ伝えれるから離れた場所からでも会話が可能です』
話を聞きレイは今まで《天眼千里》で四人の存在に気が付かなかった原因を理解した。
毎回のように一箇所に集まるのは看守に見つかる危険がある。
それを懸念して四人はそれぞれが自分の独房にいる状態で《精神感応》を利用し、話し合いをしていたのだろう。
「おいおいおい……ホントにおれたちこんな所から脱出出来るのかよ!」
だが、皆がミカやシュザンヌのように冷静ではいられないようだ。
レイの話を聞いたジェシーが顔を青くして叫ぶ。
「静かにしろ! 看守にバレるだろうが!」
そう怒鳴るアイザックも顔色が芳しくない。
ジェシーと同じか、それ以上に脱獄の難しさを感じている。
「やる前から気持ちで負けるな。後がない以上失敗した時のことを考えていてもしょうがない。ただここから脱獄することだけを考えるんだ」
どれだけ完璧な作戦でも実行者の精神状態が不安定では成功率は下がってしまう。
レイが言う通り今回の作戦は失敗できない、後のないものだ。だからこそアイザックたちには万全の状態で作戦に臨んでもらわなければならない。
「簡単に言ってくれるじゃねえか。そんなの口だけなら何とでも言える。脱獄のアテがねえから出る勇気も出てこねえんだよ」
弱気になってはいけないことはアイザックたちも重々分かっている。
しかし、頭で理解出来ていても心は別だ。
勇気とは希望があるからこそ沸いてくるもの。
アイザックの言う通り、希望がなければ最初の一歩を踏み出すことは出来ない。
「安心しろ。脱獄の算段はある」
だから希望があると知ってもらう必要がある。
闇の中に垂らされた一本の命綱があると。
「――本当か? 嘘だったら承知しねえぞ」
「本当だ。だが、それを確実にするためにはお前たちの協力が不可欠になってくる。分かってるよな?」
『自分の命令にはすべて従ってもらう』
先の契約を思い出させるように一同へ目を向けるレイ。
これは確認などではない。断ると言う選択肢を許さない命令だ。
それを理解したのだろう。ミカたちは神妙な面持ちで頷いた。
「で、算段って何なんだよ?」
「今から計画を新しく組み直すんだ。わざわざ没案になるものを聞かせる必要があるか?」
「組み直す?」
「今さっきまで俺が立てていた計画の中にお前たち四人の存在は含まれていない。だからお前たちの存在も加味して作戦を改良するんだよ」
先程までリサに話していた作戦でも脱獄出来る可能性は十分ある。
だが、それは百パーセントではない。
先述したようにこの脱獄作戦に失敗は許されない。ならばその確率を少しでも高くするために修正を繰り返してゆくのは当然と言えよう。
「そのためには、お前たちが何を出来るのかを俺が知らなければならない。お前たち二人も『異端者』なんだろ。能力が何か言え」
当然のようにレイは言い放った。
まだミカとアイザックが『異端者』がどうかは不明だが、レイは二人がそうだと断言出来た。
なぜなら既にここへやってきた四人の内、二人が『異端者』だからだ。
この四人が集まるきっかけとなったのはジェシーの独房脱走だが、その行動可能範囲は決して広くないと推測される。そうでなければとっくに単身で脱獄しているだろう。
そんな中で出会った者の内、三人が一万人に一人ほどの割合しかいない『異端者』だったなど出来過ぎた話だ。
これから推測出来るのはこの階層一帯が『異端者』を中心に収容しているということ。
『異端者』は存在自体がヨシュア教にとって忌むべきものである以上下層に押し込めるのは当然だろう。
「……分かった。話そう」
「どうして分かったのだ」などとは聞かずミカは隣のジェシーへ顔を向けた。
「まずはアイザック、きみから言ってくれ」
「了解了解」
気乗りしない様子ながらもアイザックは素直に話し始めた。
「オレの『異端力』は《暗影》。影を操る能力だ」
「それで何が出来る?」
「影の中に潜んだり、影を繋ぎ合わせてオレと同じく動きをさせたり、相手の影を突き刺して動けなくさせたり……とにかく何でも出来んだよ!」
本人も把握しきれていないようだが、応用力のある有用な能力であることは確かなようだ。
尤も、影を利用するという性質上、弱点も明確なため過信は禁物と見ていいだろう。
「次はお前だ」
「あ―……それなんだが……」
言葉を濁すと人さし指で頰を掻きながらレイから目を逸らすミカ。
どうやら『異端力』について話すことに躊躇がある様子だ。
「どうした? 話すつもりがないというなら力づくで話させてもいいんだぞ?」
「いや違う! 違うんだが……その……嘘だと思われないかという懸念があってだな」
「嘘?」
『異端力』がこの世の理を逸脱した概念である以上、俄かには信じ難い能力が多い傾向にある。
詳しくない者が聞いた際などは嘘と思うのも仕方ないだろうが、異端者であるレイがそれを疑うのは噴飯ものと言えよう。
何を心配する必要があるというのだろうか?
「それは聞いてから判断することだ。早く話せ」
目を鋭く細め、脅すように告げるとミカは観念したように溜め息をついた。
「……分かった。話すよ」
そして、ミカは重い口を開く。
「信じられないかもしれないが、私の『異端力』は複数個あるんだ」
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