第11話 奈落の監獄島
あれからどれくらいの時間が流れたのだろう。
時計がないため正確なことは分からないが、少なくとも一週間以上は経ったのではないだろうか。
突如としてやってきた異端審問官にレイは『異端者』の疑惑をかけられ、連行された。
あの場で抵抗することも出来たがサイモンやアンナ、リサに危害が及んだかもしれない。
最初からレイに選択肢はなかった。
そして、教会に連れて行かれたレイはこれから苛烈な拷問を受けることになるのだろうと覚悟していた。
『異端者』が教義の忌避対象である以上、ヨシュア教はどんな手段を使ってでも『異端者』を炙り出さなければならない。
よって、その手段は必然的に過激なものになっていく。
厳しい詰問、拷問、洗脳が主な手段だろう。
いつの時代、いつの国でも行われてきたことだ。
いやそもそも、ヨシュア教がこのようなスタンスである以上、実際に『異端者』であるか否かは問題ではないのかもしれない。
レイの自白がなくとも異端審問会が処分を断行する可能性は大いにある。
そうなってはレイとしても強硬手段に出ざるを得ない。
しかし、それは最終手段だ。
まずはこれから待ち受ける苦行に耐えなくてはならない。
そう思っていたのだが、行われた取り調べは極めて常識的なもので拷問どころか暴力の一つも振るわれることはなかった。
戸惑うレイを余所に取り調べが終わると薬で意識を奪われ、気が付けばこの部屋に監禁されたというわけだ。
初めて目にした部屋の様子は独房と言うに相応しかった。
魔素への耐性を持つ緋色金で造られた部屋は手狭だが清潔でベッドや便所などの必要最低限の家財道具は置かれており、普通に生活する分には不自由はない。
窓が一つもない所為で室内は一寸先も見えないほどの暗闇で慣れるまでには少し時間がかかったが、慣れると一人で考え事が出来る程度には心の余裕が生まれた。
(何故異端審問会は俺をこんな所へ収容したんだ?)
連中の目的はレイに『異端者』であることを認めさせ、処刑に追い込むことのはず。
にも関わらずなぜわざわざ面倒な移動を挟んでまでここへ収容するとはどういうことだろう。
「いや、こんなこと考えたところで無駄か」
それよりも、と口には出さず考える。
向こうの意図は分からないが、ここに居続けても碌なことはのは確実な以上一刻も早く脱出しなければならない。
だが、状況は八方塞がりだった。
手持ちの物は没収され、手足は拘束されているばかりか魔素の働きを抑制する首輪が装着されており、身体強化も魔法も使うことが出来ない。
更にレイは目隠しをされた状態でここまで連れて来られたため、今自分が何処に居るのかさえ把握出来ていないのだ。
仮にこの部屋から脱出出来たとしても外の状況が分からないのであればすぐに捕まってしまう。
前提からして詰んでいる――はずだった。
(ここはボトムレス監獄塔――またの名をボトムレス監獄島。ブルートゥス本土から数キロ離れた孤島にヨシュア教異端審問会によって作られた宗教犯罪者を収容する監獄。地上ではなく島の地下――海中二百メートルに亘って塔のように伸びる中心の螺旋階段を各牢屋が囲う構造で建てられており、地下へゆくほど危険度の高い者が収容される傾向にある。俺がいるのは三十四階層……全五十階層と言うことを考えると比較的下の階層だな)
にも関わらずレイは自分の置かれた現状を今まで見てきたかのように的確に把握していた。
何故なのか?
その秘密はリサも知らないレイの『異端力』の正体にあった。
(奴らは俺の『異端力』はここでは役に立たないであろう《天刑浄化》だと思っているがそうじゃない……俺の真の力は《生命の樹》。《天刑浄化》を含む十二系統の能力を行使する異端力だ)
レイの異端力は一つではなかった。
括りとしては一つなのであろうが、その中に複数個の能力を内包しており、《天刑浄化》はその内の一つに過ぎなかったのだ。
非常に奇怪だとレイは自分自身でも思う。
『異端力』は一つにつき一系統の能力しか有さないという法則がある。
しかし、レイの『異端力』はその法則から逸脱しているのだ。
雷鳥討伐の帰還後の忙しい合間を縫って『異端力』についての史料など調べてみたが、何も分からなかった。
だが、分かっていることもある。
それはこの力が非常に有用だと言うことだ。
例えば《天眼千里》。この能力は人の耳が届かない広範囲の人の声を聞き拾うことが出来、その範囲は半径五百キロメートルに及ぶ。
これを使ってレイは監獄内全ての人間の声を聞き、自分の居場所を特定したのだ。
得体の知れない能力であっても強力な武器であることには違いない。
ならばこれらを駆使して自分を閉じ込めるこの島から脱出してみせよう。
(だが、失敗しては元も子もない。慎重に、確実に脱獄するために――)
そこでレイは思考を中断させた。
外に人の気配を感じたからだ。
独房の外では常に看守が巡回しているため、それ自体におかしなことはない。
しかし、何故か気配の主はレイの独房の前で足を止めているのだ。
警戒音を頭の中で鳴らしながらそれに今まで気が付かなかった自分へ舌を弾く。
そして外からガチャリと鍵の開けられる音が鳴り、扉が開かれる。
部屋へ差し込んでくる久々の外の光に思わず目を窄めるも扉からは目を逸さない。
逆光で姿格好もまともに見えないが、何者かが立っていることは分かった。
「――誰だ?」
解放された扉の前、そこにレイの行手を阻むように一人の看守が立ちはだかっていた。
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