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38

それからギルはかゆにまとわりつくぐらいの頻度で勝負を挑むようにした。運動、勉強、遊戯等色々な事で勝負していた。


「高跳び!」

「結構ジャンプ力はある方だから。」

「私考えてみれば跳ぶ機会があまり無いですね。痛っ!?」


「小テスト!」

「頭も別に悪い訳じゃ無いよ。(96点)」

「赤点ギリギリ!!(32点)」


「トランプ!」

「分っかりやすいねぇリア~。」

「かゆさんがポーカーフェイス過ぎるんですよ!」


かゆは最初は面倒くさがっていたものの途中から諦めたかのように受け入れるようになった。尚、勝敗は全てかゆに旗が上がっているが。それでもいつの間にか名前で呼び合う仲まで仲良くなっていた。


「今日も負けました。」

「ふっふっふっ。早食いで勝てると思ったら大間違いだぞ~。」


食堂にて、大盛チャーハンの早食い勝負を挑んだものの、いつも通り敗北したギルは机に顔をつけたままかゆの顔を見る。始めは不機嫌な表情しか見る事の出来なかったその顔は今、ギルを見ながら微笑んでいる。その顔を見たギルの顔も自然と笑みがこぼれていた。


「ん~?何笑ってるのリア?」

「え?えっとその、かゆさんの顔を見てたら自然と…」

「そんなおかしな顔してた!?」

「いえ、やっぱり笑顔が似合うなって思いまして。」

「お、おぉ。ありがとう?」


かゆは顔を赤くして顔を背けた。


「じゃ!次の勝負も楽しみにしてるから!」


かゆはそう言って一足先に食堂を出て行った。先から教師の大声が聞こえてくる。廊下を走っていたのを怒られたらしい。


「楽しそうでよかった。」


かゆがどんどん明るくなっている事に安心感を覚えながらも、ここからどう調べていくかについて方法が無く難儀していた。


(仲良くはなれてるんスけど踏み込めるかというと難しいッスよね。一緒に旅をしてたッスけど姉御についての話って意外と聞いた事無いんスよね。)


残りのチャーハンを頬張りながら、ギルは唸り続けていた。


ある日、屋上で購買で買ってきたパンを頬張りながら話していると違和感のある会話があった。かゆから話をしようとしていたのだが…


「ねぇリア。私達って…」


続かない言葉にどうしたのかと目を向けると、かゆがまるで魂が抜けたかのように虚空を見つめていた。


「かゆさん?」

「はっ!?あ、あれ?何の話してたっけ?まぁいっか。」

「???」


違和感はあったもののどうすればいいかも分からない為、その後もいつも通り過ごした。

それから数日経過するも特に何も進展は無く、今日もまた帰る準備をしていた。


(一体どうすればいいんスか!?正直踏み込んだら距離が遠くなるんじゃないかって心配なんスよね。)


ゼロからもゆっくりと言われているのでどうしても慎重になってしまう。


(そろそろゼロさんにも相談した方がいいッスかね?)


重い足取りで昇降口に着いたギルが下駄箱を開けると中に一枚の紙が入っていた。


「ん?これは一体?」


紙を開いてみるとそこには一文が書かれていた。


『屋上にて君を待つよ。ギルゼムト君。』

「!?」


自分の本当の名前が書かれている事に衝撃を受けたが、ギリギリで声を抑える事が出来た。誰も居ない事を確認して再び紙を見る。


(見間違いじゃない。どうして名前が!?ここでは一切名前は出していないはず…。)


ギルは周りを確認してから校舎の中に引き返し、そのまま階段を駆け上がる。屋上の扉を開け放ち、辺りを見回すと、一つの人影を確認できた。


「かゆさん?」


そこに居たのはかゆであった。かゆが振り返りギルを見ると、ギルはふと違和感を感じた。それは今のかゆでもなければいつものかゆでもない、誰か別人なのではないかと疑うぐらいには雰囲気が違っていた。


「やぁ。ギルゼムト。随分可愛らしい姿になったね。」

「あなたは誰ですか。」

「そうだなぁ、詳しく話すのは時間が無いから無理かな。簡潔な用件だけ伝える事にするよ。」

「姉御の体で何をしているんだ!!」

「落ち着きなギルゼムト。今はボクの事じゃない。この子の事だ。」

「……………。」


かゆの姿をした誰かが胸に手を当てて真剣な顔を見てギルはとりあえず話を聞く事にした。


「それじゃあ、用件を話そう。君は今、この子にどう話をすればいいか分からない。そうだね。」

「……………。」

「この子の封印された記憶は遥か昔、幼少期の物だ。その部分が今曖昧になっている。ボクの予測が正しければ封印された記憶は一つの単語に関する記憶なんだ。そしてそれは、『人』にまつわる物。それを思い出させる事が封印を解除する唯一の方法であるとボクは考えている。」

「『人』にまつわる物…?」

「だからギルゼムト。思い切り踏み込んでみるんだ。この子はそれくらいで関係を変える子じゃないと、君なら分かるだろう?…おっと時間切れだ。バイバイ。」

「ちょっ!あなたは一体!!」


かゆの目がゆっくりと閉じられ、再び目を開く時には雰囲気は元に戻っていた。


「あれ?私何で屋上なんかにいるんだろう。ってリア。どうしたの?また勝負したいの?」

「……………。」


ギルは俯き、返答に困っていると、後ろから声がかけられた。


「君達どうしたんだい?もう皆帰っているよ?」


振り返ると、そこには屋上の扉に手をかけた状態の雨花が立っていた。


「そろそろ校門も閉まる時間だよ。」

「どうして雨花さんがここに?」

「僕は学級委員長だからね。ある程度の見回りをしているんだ。あと僕の事は幸でいいよ。」

「分かりました。ありがとうございます幸さん。そろそろ帰る事にします。行きましょう、かゆさん。」

「え?うん。」


ギルはかゆの手を引いて屋上を後にする。そんな二人を見る幸の口元は薄く笑みが浮かんでいた。二人は昇降口まで移動した。


「ちょっとリア!どうしたの?」

「かゆさん。明日また屋上でお話してもいいですか。」

「え?まあ別にいいけど。」

「ありがとうございます。じゃあまた明日。」

「うん、また明日~。…どうしたんだろう。凄い顔してたけど。」


かゆと別れたギルは走ってアパートに帰った。


「ワイズさん!」

「あら、お帰り。何か進展があったのかしら?」

「姉さんが!何か雰囲気違くって!それで!」

「普段と違うかゆが助言してくれたんでしょう?素直に受け取ればいいですわ。」

「…え~?」


ワイズの淡泊な反応にギルは何とも言えない気持ちになる。


「人には必ず他の人には言えない事もある。とはいえ何も知らないままでは何も変わらない。かゆを助ける為にも覚悟を決めなさい。」

「…わかりました。頑張ってみます。」


そして次の日、授業が終わり二人が集まった放課後の屋上。二人は壁に背をつけていた。


「かゆさんに聞きたいことがあるんです。」

「なに?」

「かゆさんの小さな頃を教えてほしくて…無理にとは言わないんですけど、出来れば教えてほしいんです。」

「小さい頃かぁ。あまりいい話じゃないよ?」

「それでも、お願いします。」

「そうだねぇ、どこから話そうか。」


かゆは腕を組んで唸りながらも話し出す。その内容はとても気分のいい物では無かった。


元々は捨て子であった事。育ての親も5歳の時点で居なくなってしまい、村からもよく思われていなかった事。


「だから私はいつしか森に入り浸るようになった。そして出会ったんだ。私の…わた…しの…。」


今まで流暢に話していたのに急にぎこちなくなる。そのうち頭を抱え始め座り込む。


「あれ?おかしいな。忘れるはずない…のに。」

「大丈夫ですか!?」


ギルが話しかけてもそれを気にする事無くぶつぶつと何かを呟き始める。段々と息も荒くなり、まるで発作のような状態にまでなり始めた。


「どうしたんですか!?返事をして下さい!かゆさん!!」

「そんなはずない!だってあの子は…私の…大事な…」


ギルはその言葉でピンと来た。以前自分に問いかけようとしていた言葉と今の言葉の共通点、そして『人』にまつわる物。すなわちそれは『失われた記憶の人物との関係』なのではないのかと。そしてこの場合の答えは…。


「『親友』…ですか?」

「え?」

「かゆさんのその言葉の先には、『親友』…と入るのではないですか?」

「しん…ゆう?…うっ!ぐっ!あああああ!」


『親友』という単語に呼応してかゆの体から黒い霧が吹き出し始める。ギルは近くにいるのは得策ではないと判断して距離を取った。霧が晴れるとそこには空中に浮かぶ黒い球体と同じく十字架に貼り付けにされたかゆの姿があった。


「姉御!!」


かゆは意識を失っているようで返答は無い。やがて球体は地面に水滴の様に落ちてから形を整えていく。完成した姿は人型であり、影を実体化したみたいな見た目であった。しかしその姿はあまりにも幼く、小さかった。しかし油断は一切出来なかった。なぜならその影からは明確な殺意が放たれ、手にはナイフがにぎられていたからだ。


「一体これは…。」


ギルが状況を飲み込めずにいると影は容赦なく切りかかって来た。


「うわっ!ちょっ!」


ナイフをギリギリ躱して地面を転がる。


(流石にこれは戦わないとダメ見たいッスね。なら!)


いつも通りインベントリから装備を出して戦闘態勢を整える。…はずだった。


「どう…して…?」


いつも通り、そう、いつも通りできるはずだったのだ。


「あ…れ…?」











(ドウヤッテ…タタカウノ?)











「うっ!頭が…痛い!」


ギルが頭を抱えている状態でも影は襲いかかって来る。視界に映ったナイフを間一髪で避けるが、追撃の蹴りをまともに受けてしまいフェンスへと吹き飛ばされる。


「かはっ!…くそっ。」


武器が無くては戦えない。武器を使っていたことは覚えているのにどんな武器だったのか思い出せない。


(このままだとまずい!何か、何か武器を!)


周りを見渡してもここは屋上。武器なんて見つかる訳もない。その間にも影は距離を詰めてくる。


(終われない。こんな所で…誰も救えないままなんて。また!俺は!何も…!)


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『………お………………ま。』


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何かが聞こえた気がした。とても懐かしく幼い声。


「はぁぁぁぁああああ!!」


突き出されるナイフに向かって咄嗟に手をかざす。するとギルの両手から光が溢れ出した。影は何かに弾かれ距離を取る。光が収まったその手には、確かに武器が収まっていた。

phase1 遊燐花 かゆの記憶


「黒の暗殺者」

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