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お菓子を買って部室前まで戻ってきたかゆ。部屋に入ろうと扉に手をかけようとすると、いきなり扉が開かれオメガが走り出て行った。横に避けたかゆは何事かと思いながら部室の中を覗く。中ではれいとギルがポカンとしており、アルフアはオメガが出て行った先を見つめていた。
「えっと、どゆこと?」
「それが全然分からないんッス。突然立ち上がって出て行っちゃったんスよ。」
「とりあえず追いかけないと!」
アルフアはまだ固まっていたが、そんなアルフアの手をれいが引いて走り出す。
「アルフアさんも行きましょう!」
「う、うん!」
全員部室を出てオメガの捜索を開始する。ギルは校内、かゆとれいとアルフアは町へと向かう。なおかゆ以外の二人は町へ降りる道中でばててしまった為かゆが二人を抱えて町まで降りた。町まで降りて来た三人はかゆは一人で、れいとアルフアは二人で分かれて捜索する事にしたのだった。
そうして、捜索が始まってから2、3時間が経過したころ、オメガの姿を先に見つけたのはかゆだった。
「あ!いた!」
「……………。」
路地裏で体育座りをしていたオメガは顔を一度かゆに向けてからすぐに顔を正面に戻した。
「…何か?」
「何か?じゃないよもぉ~。皆で君の事探してたんだよ?」
「…何故?」
「何故?そりゃ仲間だからでしょ。」
「俺は信用していないと言った。」
「ふぅん。…嘘だね。」
かゆは路地裏に入りオメガの脇に立つ。オメガは視線もくれず黙っている。
「君は簡単に信じちゃったんじゃないの?だからアルフアさんを任せようとしたんじゃないの?」
「……………。」
「関心しないなぁ~。そんなすぐに信じるのは。私達の誰かがアルフアさんに危害を加えたらどうするの?守れるのは君だけなのに。」
「あなた達はそんな事しないだろう。」
「確かにれいちゃんはやさしいし、ギルは自ら進んで人を傷つける事はしないね~。」
オメガは部室で見た光景を思い返す。れいと共に料理をするアルフアはとても楽しそうで、れいもその姿を見て共に笑い、自分に話しかけてくるギルは不器用ながらも一生懸命話を弾ませようとした。それは今まで碌に感じる事の無かった平和な空間。しかし何故か苦しくなり飛び出した。
かゆがオメガの前にきてしゃがむ。その瞳は普段とは似ても似つかない冷たい瞳だ。
「でも、私は?」
「…何?」
「私の事はどう思う?」
かゆについてオメガは何も知らない。まだ会ったばかりで少しも時間を共に過ごしていない。
「…分からない。」
「そうだろうね。そんな私がアルフアさんに危害を加えないってどうして言えるの?」
「…あの二人がいる。」
「れいちゃんとギルがいるから私も優しいだろうって?それは甘く見積もり過ぎじゃないかな~。」
かゆはオメガから数歩離れる。オメガはかゆが離れていく姿に顔を向けようとして、飛び上がる様に立ち上がり剣を持った。オメガの視線の先では音も無くかゆが剣を向けていた。
「これでも、そんな甘い考えでいられる?」
「…何のつもりだ。」
「分からない?君に剣を向けてる。…自慢じゃないけど私は強いよ。もし君以外に仲間…もしれいちゃんとギルが君の味方をしていたとしても、力負けするつもりは無い。」
「……………。」
「本気で来て。手加減される程、甘くないから。」
次の瞬間オメガの目の前にいたかゆが剣を振り下ろしてきていた。オメガは後ろに飛びながら剣を打ち合わせて防御した。その瞬間二人の頭の中に声が響いてきた。
(問題を起こそうとしてるおバカさん達に連絡しますわ。こんな事になるだろうと自動で発動する魔法をセットしますわ。『沈黙を貫く男の章』、『難攻不落の男の章』、『忘れられた乙女の章』、『迷子の子犬の章』。…こんなところですわね。あなた達の周辺の事は関係者以外現状に気付く事はありませんわ。存分に遊び回りなさい。)
聞こえて来たゼロの声と共にドームのようなものが完成し建物や地面は白く輝き始めていた。
「ゼロさんにはお見通しかぁ~。やりやすくて助かるけど。」
かゆはかなわないなぁと小さくため息をついてオメガを見る。
「さてお膳立てもしてもらったし、オメガ君。君の強さを見せてみてよ。君の、お姉さんを守る為の力を。君が弱かったら、私がお姉さんを傷つけちゃうかもよ?」
「!!」
オメガはかゆの正面から切りかかる。かゆは振られた横切りの剣をひらりと後ろに躱し、すぐさま切り返しを行う。オメガがその切り返しを防ぎ再び踏み込む。互角に見える打ち合いは数分続いたが、ずっと拮抗した状態となる。オメガは違和感を感じる。あれだけ強いと言っていたのにどうして互角に打ち合えているのか。
「そろそろ気付いた?私は一切本気を出してないよ。その程度でお姉さんを一人で守れると思っているんだったら………とんだ傲慢だね。」
「……………。」
切り結びながらかゆが話してくる。違和感の正体を教えてくれながらも合わせて煽ってくる。
「…見下しているつもりはない。だが…」
オメガは打ち合いで力を籠めてかゆを弾き飛ばし、距離が出来たのを確認して剣の鍔部分に手を置く。かゆは追撃を行わずオメガの行動を見守っている。鍔の部分は歯車の形状で出来ていた。オメガがその歯車の部分を勢いよく回転させると剣が光り始める。
「接続…神なる権能…我が身に宿るは機械の神。その名を持って我に力を与えよ!エクスマキナ!!」
オメガの目が赤く光り輝く。それと同時に剣にも変化が起きる。剣から炎が広がり始めたのだ。
「炎よ、その力をもってかの敵を焼き尽くせ。フレイムロア!」
炎は勢いを増し激しく燃え盛る。その状態を見守っていたかゆは薄く笑う。オメガはそんなかゆを真っ直ぐ見据えていた。
「力なら…ある。」
「へぇ~魔法剣かぁ。面白くなってきたね。」
オメガはフレイムロアを振るいかゆへと切りかかる。かゆは無理に打ち合わず躱し続ける。
「魔法が相手なら有利な属性で戦わないとね。」
かゆの衣装が黒衣の魔法使いに変化する。杖から複数の水玉を召喚してその全てをオメガに向かって放つ。水を視認したオメガは水玉を躱してかゆに近づいて行く。
「やるね~。じゃあこれはどうかな!」
かゆが杖を振るうと地面から水が竜巻の様に立ち昇り通路を塞いで向かってくる。かなりの高さで立ち昇り回避不可能な攻撃だ。しかしオメガは走る速度を緩めずそのまま水流に向かって行く。
「氷よ!その力をもってかの敵を氷像と化せ!フロストバン!」
剣の属性が氷に変化し、オメガはその剣を突き出して水流へと突っ込む。水流はその全てが凍り、粉々になった。オメガの勢いは落ちることなくかゆの目の前に出る。…はずだった。かゆの姿は既に路地に無く、かゆは大通りから弓を構えていた。かゆが手を弦から離すと目に見えない速度の矢が飛んできた。オメガは事前に構えていた剣で受け止めようとするが、予想を遥かに超える威力に驚きすぐさま対処を行った。
「くっ!風よ!その力をもってかの敵を切り刻め!ウィンドミル!」
剣から風を起こし強引に矢の軌道を逸らしたのだ。軌道の逸れた矢は複数回反射してから地面に落ちた。
「いいね!複数の属性を使えてちゃんと対応も出来てる。技量も中々、もう少しだけ試させてもらおうかな。」
かゆは感心しながら次へと行動を移していくのだった。




