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村に戻って来たゼロは村が騒ぎになっているのを聞いて騒ぎの中心へと向かった。そこには地面に倒れて頭を抱えているダイヤとそれを心配している村の人々がいた。子供がダイヤの体をゆすって起こそうとしているが、ダイヤはその行為に反応する事も出来ず、ただただ頭を抱えたまま苦しんでいる。ゼロが本を使用するとダイヤの体が光に包まれる。


「聞こえるかしら。」

「その声は…ゼロ殿?」

「大丈夫なようね。いい?よく聞きなさい。今あなたがその頭痛に悩まされているのはあちらの世界からの干渉を受けているからですわ。頭が痛いのは複数の声が聞こえるからではなくて?」

「はい…。よく分からない声がずっと頭の中に響いていました。」

「あちらの感覚設定を変更したようですわね。それを無くすためにはあなたは決断する必要がありますわ。といっても、もう今のあなたにとって難しい事では無いけれどね。」

「それは…一体?」

「あなたの体は二つある。あちらで意識の無い抜け殻の体と、こちらの意識のみの精神体。それを元の一つに戻せばその現象が起こる事は無くなる。つまりどちらの世界を選ぶか、と言う事ですわ。」


ゼロは本を持ち出す。


「あなたはどうしたい?」

「もちろん…こちらを選びます。私にとっての現実は間違いなくこちらですから。」


頭の音が引いてきたダイヤは立ち上がり、ゼロに向き合う。その目には確かな決意が宿っている。


「よろしい。では向かいましょうか。あちらの世界に。」

「はい!」


-------------------------------------------------------------------------------------


「ご苦労さん!じゃ、これは俺が預からせてもらうぜぇ。」

「ちょっと!それは私が作成した…」

「…チッ。うるせぇんだよ格下がぁ!お前は大人しく俺様に従ってりゃいいんだよ!」


同期の社長子息は私の手柄を自分の物として扱い、周りの同僚や先輩方も自分が目を付けられないように保身にしたり、同調して私の事を貶めて来た。私の味方なんて、誰もいなかった。


「ちょっと輝羅良(きらら)!今月分はこれだけなの!?」

「こんなんじゃ満足に酒も飲めないぞ!」

「ちゃんと働いてるの?妹ちゃん達が悲しむわよぉ?」

「まったくこれだからお前は名前負けしとるんじゃ!まったく役立たずめ。」


祖父母も両親も自分ではなにもしてないくせに全てを私のせいにして責め立てる。


「お姉ちゃん~お金ちょうだ~い。今度彼氏と映画身に行くから~。」

「あたしも~。オシャレな洋服見つけたの~。早くくれないとおじいちゃんに言いつけるぞ~。」


兄は部屋から出ず、二人の妹たちは私を財布かなんかだと思っているようだった。弟は両親に愛でられており、話す事自体が稀だった。


それが私の家族、鏡家だった。


-------------------------------------------------------------------------------------


開いたポータルを通り、二人は別世界へと移動する。


「到着、ですわね。」

「ここは、私の部屋?」


そこは一つの部屋、明かりがついておらず、月明かり…いや、外の街の明るさで部屋が照らされている。見渡せばほとんど家具すらない。あるのはベットとそこに横たわる女性、ダイヤの体である(かがみ) 輝羅良(きらら)の姿。それと入り口であろう場所で少ない家具を集めて塞いでいる少年の姿だった。


「あら、先客がいる様ですわね。」

「あなたは。」


少年は二人に気付くとベットのそばにかけていく。


「お姉さんたちだれ!?またお姉ちゃんをいじめるの!?」


少年の体は震え、目からは涙がこぼれそうになっている。それでもその目には確かな決意が実っていた。双方動きが止まっている中、周りの音がとてつもなくうるさい事に気が付く。


「!この声は!?」


部屋の外から聞こえてくる家族たちの怒声。家の外から聞こえてくる多くの人達の罵声。拡声器まで使っているのかその声は耳を塞ぎたくなるほどだ。


「この声が…。」

「そうですわ。これがあなたを苦しめた騒音、その元凶ですの。」


聞こえてくる声は全てダイヤに向けられている声だ。かなりの数の人がダイヤを責め立てていたのだ。


直輝(なおき)!ドアを開けなさい!その疫病神を引きずり出すの!」

「直輝!パパの言う事が聞けないのか!?」

「直輝ちゃん?出ておいで?おばあちゃんと一緒にお菓子でも食べましょう?」

「早く出てくるんだ!!」

「直輝~お姉ちゃんたちがいいの買ってあげるよ~。」

「最近流行りのおもちゃでも買ってあげようか~。」


直輝(なおき)と呼ばれた少年はドアの方に目を向ける。大きな音で叩かれているドアを見て怯えたように輝羅良の体にしがみつく。


「みんな嘘つきだよ!お姉ちゃんは何も悪い事してないのに、なんでみんないじめるの!?お姉ちゃんがかわいそうだよ!!」


輝羅良の体にしがみついたまま涙をこぼし始めるなおき。ダイヤはその姿を驚いた顔で見つめていた。


「この子がどうして、といった顔ですわね。」


ダイヤが隣を見ればゼロが微笑みを向けている。


「とりあえず先に同調なさい。話はその後でもできますわ。」


ダイヤは頷きベットに移動する。直輝が警戒して睨めつけてくるが、ダイヤは微笑みを返す。ポカンとした表情になった直輝を尻目に輝羅良の体に手をかざす。すると輝羅良の体が輝きだし光になる。その輝きはダイヤの体へと流れ込んでいく。輝きが全て吸い込まれた時、ダイヤの耳には二重ではない騒音が響くようになった。


「お…姉ちゃん?」


驚きの顔で固まってしまった直輝をダイヤは抱きしめた。


「ありがとう。私を守ってくれて。」

「………うん!!」


二人はお互い抱きしめ合いながら静かに涙を流したのだった。


「いい所悪いですけれど、種明かしの時間ですわ。あまり時間も多くは無いですしね。」


ダイヤが本を開くと本の上に大きな鏡が現れる。二人が鏡を見ると、そこには自分達の姿では無く過去が映し出されていた。


-------------------------------------------------------------------------------------


「直輝。あれには近づいちゃだめよ。うつっちゃうから。」


母親はそう言った。指を指した先には洗濯物を干す輝羅良の姿。服はスーツのまま、かごから洗濯物を取り出しては干していく。


「あれはね、私達に使われるためにある物なの。だから何も気にすることはないのよ。あれと同じにならなければそれでいいの。分かった?」

「……………。」


直輝はそう言われるたび輝羅良の姿をその目に映した。理不尽な状況にありながらも生きていく意志の籠った瞳、それを見た直輝は輝きに惹かれていた。しかし、その輝きはずっと続きはしなかった。日に日に暗くなっていく瞳、子供の直輝にはどうすることも出来なかった。ある日、暗さに飲まれかけていた瞳に再び光が満ちているのを直輝は見た。以前と同じ輝きを取り戻していたのだ。


直輝は両親が寝静まった深夜に起きて輝羅良の部屋を覗きに行った。そこにはベットに座って知らない機器を持ち微笑む輝羅良がいた。輝羅良も直輝の姿に気付き、すぐに顔が青ざめていった。その顔を見た直輝はすぐに部屋に入り謝った。


「ごめんなさい!」

「ううん。いいよ。…もう、終わりなのか。短い夢だったな。」


輝羅良は俯き、直輝からは顔を見る事が出来なかったが、床にポタリと音がしたことによってすぐにどのような顔をしているかが分かった。


「ぼく言わない。」

「え?」

「ぼくこの事絶対誰にも言わない。」

「…どうして?」

「絶対言わないから!」


そう言って直輝は部屋を出て行った。驚いた表情をした輝羅良を置いて。その日から、直輝は家族を出来る限り輝羅良の部屋から遠ざける様に過ごし始めた。わがままのふりをして部屋に行きそうな家族を止めたり、一人にするために泊まりに行ったり。その分の苦労をかける事と輝羅良に会えない事を心苦しく思いながら。


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「ずっと、ずっと守ってくれていたのね。」

「うん。ぼくは、お姉ちゃんが一番優しいんだって思ったから。」

「…ごめんね。ありがとう。」


二人はお互いの顔を見て笑顔を浮かべる。その光景を見ながらゼロは微笑み、一つ咳をする。


「…コホン。それでは少年に質問しますわ。」

「?」

「あなたはこれからどうするのかしら?」

「ぼくは…。」


直輝はダイヤの顔をチラッと見てからゼロの質問に答える。


「お姉ちゃんと一緒にいたい。」

「そう。でもあなたのお姉ちゃんはもうこの世界には戻って来ませんわ。」

「じゃあぼくも行く!!」

「ふふっ、いい回答ですわ。」

「可能なのですか?そんなことが。」

「大丈夫ですわよ。そのための界有者ですもの。あなたと同じように変わればいいのですわ。」


閉じられていたポータルを再度開くと、そこには白い世界が広がっている。


「さぁ!お行きなさい!新しい始まりの世界に!」


ダイヤとなおきは頷き、手と手を繋いで二人一緒にポータルへと入って行った。それを見届けたゼロは即座にポータルを閉じる。次の瞬間、部屋の壁一面が破壊された。


「見つけたぞぉ。クソ女ぁぁぁぁぁ!!」

「あら、ご挨拶ですわね。」

「お前さえ、お前さえいなければぁぁぁぁぁ!!」

「うるさいですわね。まだ野生の動物の方が大人しいのではなくて?」


男はひたすらに殴りかかってくる。しかし見えない壁に阻まれ、その拳がゼロに届く事は無い。


「相変わらず頭が弱いですわね。」

「死ね!死ね!死んでしまえぇぇぇぇぇ!!」

「別にいつまでもやっていて構わないのだけれど…そろそろ時間ですわね。」


ゼロの声も聞こえないのか男は殴り続けている。突然、空気が変わる。それはあまりにも重く、動く事すら許さないと言われているかのような空気であった。その空気の圧を受けて男は拳を固めたまま微動だにしなくなった。ゼロは片膝を付き、頭を下げる。部屋にポータルが現れ、その中から人影が現れる。


「久しぶりであるな。『物語(クロニクル)』の。」

「お久しぶりです。『審判者(ジャッジメント)』様。」


ゼロが審判者と呼んだその人は中性的な見た目であり、声は男女の声がそれぞれ混じった様な声が響く。白と黒が交互に混ざっているような足元まで伸びる髪はどのような原理なのか色が入れ替わったりしている。


「それで?そやつが例の?」

「はい。別世界に侵攻を目論んだ哀れな違反者です。」

「ふうむ。大したやつには見えぬがの?」

「前任の界有者の教育不足かと。そういった知識を一切持ち合わせていないのです。流石に前任の居場所までは把握していませんが。」

「なるほどのぉ。まぁ、行動を起こしてしまった事は事実じゃしの。罰を与えぬ訳にもいくまい。」


審判者は男を見る。男は同じ体勢で音が出ない様に静かに息をしている。まるでそこに何もいないと思わせるかの様に。その心臓は激しく鼓動している。


「判決は黒。界有権を削除、その存在を抹消する。」


審判者がそう発言した瞬間。男は消え去った。そこには元々何も無かった様に。


「この世界はどうするのですか?」

「そなたからの報告によればこの世界は元々一つだったのだろう?ならばこちらは白紙にして徐々に一つに戻るようにしておこう。儂に任せておくがよい。」

「承知しました。」

「やれやれ、もう少し態度を崩しても構わぬぞ?もっと頼ってくれてもよいというのに。」

「大問題にならなければお呼びしませんわ。お忙しいでしょう?」

「昔は初々しくて可愛かったのにのぉ。」

「…昔はですわ。」

「儂に世界の事を聞かされる度にオロオロと…。」

「あぁ!もう!私は戻りますわ!ありがとうございましたですわ師匠!」

「ほっほっほっ。昔から可愛いと呼ばれるのに慣れていないのは変わらぬのぉ。」


二つのポータルが無くなったその場には誰も残っていなかった。

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