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「おい、こっちの大将が…。」
「あぁ、消えちまった。」
流れた映像を見て侵略者達の動きは止まった。ゼロは静まり返った戦場の中、声を響かせる。
「さて、あなた達はどうするのかしら?大将格が居なくなったあなた達の行動は自由よ。」
戦場の各地がざわつく。彼らは実際の所面白いゲームがあるからと参加していた。それが今や仲間を失う命懸けになり、自分達を率いていたリーダーは居なくなった。
「こんなのもう無理だろ。諦めようぜ。」
「そうだよな。こんなのゲームじゃねぇ。」
ほとんどの者は自ら元の世界へと帰還していった。
「俺の仲間を返せ!」
「そうだそうだ!この人殺し!」
「仲間の仇ー!」
その中一部の者達は仲間を失ったことで残ろうとしていた。その光景を見たゼロは大きくため息を吐いてから杖で地面を叩いた。すると地面に広がっていた赤い液体は瞬時に消滅し、元の風景へと戻っていた。
「くるくると回る手の平返し、まっ、そんなものですわよね。」
手元の銀色に輝く本を広げる。
「我は神に近づきし者なり、今一度、世界の理を捻じ曲げよう!三つの針よ、回れ、回れ、回り回って戻り帰よ。『過去へ航海した者の章』『時間旅行』。」
ゼロが詠唱後本を閉じると、後ろに時計が現れ、その針が逆方向に回転し始める。するとあの液体に飲まれ、生ける屍と化していた者たちが元の姿で現れ始めた。蘇った者達は何があったのかすら思い出せない様子であったが、仲間が戻って来た事を喜んだ者達は仲間の手を引いて帰って行った。
「ふぅ、やれやれ。まさか一日に二回も詠唱魔導書を使う事になるとは、流石に頭が痛いですわね。」
ゼロが瞼の上をぐりぐりしながら戻ると、村人達から拍手が上がった。
「「救世主様だー!」」
ゼロは驚き一度手を止めたが、再びぐりぐりし始めた。
「流石に少し調子に乗り過ぎたかしらね…。」
苦笑いを浮かべながらゼロはかゆ達と合流しに喝采に向かって歩きだした。
「救世主様だって~。」
合流したゼロにからかう様にかゆが笑いながら話しかける。周りの仲間たちも笑みを浮かべている。
「そんなじゃないわ。私の読みが甘かったから、自分の尻拭いをしただけですわ。」
「それでも多くの人が救われたのは確かでしょ?」
「まぁ、そうだけれどね。」
ゼロは目を閉じて上を向いたが、すぐに向き直り今後の事を話し始めた。
「さて、この世界の脅威は去って、私達の探し人も見つかりましたわ。そろそろ私達も帰りましょう。」
「帰るッスか?どこに?」
「ふっふっふっ、今私はこの二人と一緒に行動していてね、ゼロさんがギルを見つけてくれたんだよ。今帰る場所はその世界になるんだ。」
「つまりは俺と姉御の世界じゃなくてそのお二人の世界って事っスか。…迷惑にならないッスか?」
「何も問題はありませんわ。元々巻き込んだのはこちらなのだしね。」
「そういえば姉御を連れて行ったって言ってたッスね。」
ゼロはクスクス笑ってから森を指差して話を続ける。
「あちらの方角にあなた達が入って来たポータルがあるわ。そこに向かいましょう。」
ゼロが先導するように歩き出す。かゆ達もそれについて行こうとすると後ろから呼び止められた。
「もう行ってしまうのだな。」
ダイヤを先頭に村の人達が集まっていた。
「この度は私の事だけでなく村まで救って頂き、誠に感謝致します。」
「私はちょっと手を貸しただけですわ。普通に勝てる戦いを確実に勝てる様にした。私、負けるのは嫌いなの。」
ゼロは先に行ってると言い残して森へ向かって行った。
「かゆ殿、貴方の戦い方すごかったです。あなたがいなかったら私はここに居なかったかもしれません。感謝します。」
「助けられたのなら良かった。これからも頑張って。」
「ギル殿、私達がくる直前までこの村を守護して下さり、ありがとうございました。」
「最終的にあの状態になっちゃったッスけどね…。でも村が最後まで無事でよかったッス。」
「れいさん。また私が戦える様にしてくれてありがとう。あのままだったら私は、もう立ち上がることすら出来なかったかも。あなたのおかげです。」
「うん。うまくいって良かった。…その剣と盾、大事に使ってね。」
「はい。一生大事に使います。あなたがくれた、この世に一つだけの武器ですから。」
ダイヤとれいがが剣と盾を見て笑い合っているとかゆが話に入って来た。
「名前とか、つけといたら?」
「名前、ですか?」
「名前があると意外と愛着が湧くものだよ。」
「名前…。」
ダイヤが再度剣と盾を見ると、元になったであろう虹鉱石の効果なのか見る角度によってうっすらと色が変わり、虹が入っているかのようだ。
「アルカンシエル。」
「それは?」
「単純ですけど虹って意味らしいです。」
「物知りですね。」
「色々頑張ってましたから。」
ダイヤはそのまま名付けたばかりのアルカンシエルを見つめている。
「それではダイヤさん、そろそろ行きますね。」
「あぁ、もしまたこの世界に来ることがあったら頼ってくれ。案内できるように勉強しておく。」
「ふふっ、期待していますね。」
「それじゃあ、また。」
「さようなら。またね。」
れい、かゆ、ギルの三人はその場を後にして背中に歓声を受けながら森へと向かって行った。




