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赤い液体は村以上に拡大していく。ゼロの服装は白いローブから一転、真っ赤なドレスへと変わる。足元から赤く染まった屍の山が盛り上がり、次第に椅子の形になる。ゼロはその椅子に座り、足を汲んで頬杖を突く。
「ここは私の庭。私の許可なき者の立ち入りは許さないわ。」
円の内側に居るかゆ達もこの光景を見て驚きを隠せずにいた。
「うわぁ。これ触ったらどうなるんだろう。」
かゆの興味本位の呟きを聞いたゼロが注意を呼び掛ける。
「決してその円から出てはいけませんわよ。あなた達もこのようにはなりたくないでしょう?」
そう言ってゼロは前を向いたまま本を取り出しその効果を発動させると円の中に一つのモニターが映される。そのモニターには正しく地獄絵図とも呼べる光景が浮かんでいた。
「やめろ!やめてくれ!」
「うがぁぁぁ」
「く、来るなぁぁぁ!」
「ぎゃあぁぁぁぁぁ!!」
赤い沼からゾンビやスケルトンが湧き出て勇者とは名ばかりの侵略者達が沼の中に引きずり込まれていく。そして引きずり込まれた者は新たなゾンビとなって向かっていく。
「タ、タズケ…テ。」
「おい!しっかりしろ!」
中にはそのまま意識がある者もいる様でそれに呼びかける様子も見える。
「なるほど…こうなりたくは無いね~。」
「同士討ちとか恐ろしい事するッスね…。」
円の中にいる者皆、心から彼女が敵でなくて良かったとかゆ達含めて思うのだった。
そう安心していたのもつかの間、モニターに変化が現れる。
「広がっているのは地面だけだ!空から仕留めに行け!」
黒スーツの界有者が言うと、鳥やドラゴンに乗った者達が空から越えてくる。ドラゴンの背には複数乗っておりこれだけでもかなりの人数だ。ゼロはそれを確認しながらも何も行動を起こさない。
それを見た黒スーツは高笑う。
「馬鹿な奴だ!地面だけ封鎖したところで意味が無い!所詮は小娘の浅知恵よ!フハハハハ!」
ゼロは肘をついたまま変わらず微笑みを浮かべている。
「ゼロ!このままじゃ!」
「れい、物事にはね、何事もタイミングが重要なのよ。それは戦いでも変わりは無い。」
れいの心配を気にもせず、ゼロは真っ直ぐ前を見据えている。その姿を見てかゆは一人納得していた。
「あ~なるほど。これまた相手が可哀そうだね。手、合わせとこ。」
「どういう事ッス?」
「最初から対策出来てるから誘ってるんだよ。相手により甚大な被害が出るように。あっちは欠陥だと思って突撃させてるし、私はあんな指揮の下に付きたくは無いね。それにしてもゼロさん容赦無いな~。私でも流石に躊躇するよ?」
「敵と仲間を選ぶなら仲間を選ぶ。簡単な理屈でしてよ?」
「まぁ、私もゼロさんと同じ立場ならやる事は変わらなかったかな。聞く耳持たずだし。」
ゼロとかゆ。戦いに関しては結構同じ考えの様だった。
このように雑談しているうちに敵は段々とゼロに近づいていた。敵はゼロが射程に入るなり、数多くの魔法を飛ばしてくる。そんな中でゼロは演技の様に言い放つ。
「誰の許可を得て私を見下ろしているのかしら。跪きなさい。」
その一言によって、魔法も生き物も全てが地面に直下した。それは赤緋紅の庭の領域全てに反映し、領域の上空にいた全てが地面に落ち、沼に飲み込まれていった。
黒スーツはその光景に唖然とする。
「何だ?…一体何が起きた!?」
「潮時だから教えてあげましょうか?」
「なんっ!?」
黒スーツが振り返るとそこには本に乗って浮くゼロの姿。確かに玉座に座っていた姿だ。黒スーツが玉座を見るとそこには同じくゼロの姿がある。
「どういう事だ!何故二人いる!?」
「簡単な事ですわ。あちらは幻影。ただそれだけ。戦いの経験すら無い子供では理解できないかしら。」
「そうか。だったら私の前に現れたのは愚策だったな!今ここで貴様を『強制』してしまえば形勢逆転だ!」
そう言いながら黒スーツは光る手でゼロに触れようとする。
「そんな手で触れようとしないで下さる?汚らわしい。」
その一言で黒スーツの手は見えない何かに弾かれる。
「何っ!?」
「あらあら、自分の能力の事すら理解しきれていないのかしら。」
ゼロは困った様に頬に手を添えて続ける。
「あなたの能力『強制』とあの子の能力『拒絶』は界有者の能力の中でも最も低レベルでポピュラーな能力であり、界越者である私にとっていくらでも対策できる能力なのよ。触れられなければ何も問題無いもの。」
「それなら触れてしまえばいいだけだ!」
「…呆れた。」
黒スーツはひたすらゼロに向かって手を伸ばすが、移動すらしていないのに手は一向に届かない。
「何故だ!何故!」
「ここまで頭が悪いともはや呆れを通り越して称賛しますわ。私がわざわざあなたにやられる為に来たとでも?私はね…。」
ゼロは微笑みをより深めて淡々と告げる。
「あなた達を終わらせに来たの。」
「どういう事だ…それは…。」
『戦い』では無く『あなた達』を終わらせに来た。そうゼロは告げた。ゼロは小馬鹿にする様にクスクスと笑う。
「どうせ言葉では分かりませんわ。だってあなた…馬鹿ですもの!」
「き、貴様ぁぁぁ!!」
黒スーツはゼロの挑発に腹が立ったのか、がむしゃらに腕を振り回している。変わらずゼロには届かないが。そんな光景がいつの間にか空中に表示された大きなモニターで周囲の人達に見えるようになっていた。
「お、おいあれ!」
「あれって、こっちの大将じゃないか?もう一人は誰だ?」
「あの遠くに見えている玉座の女じゃないか?どういう事だ?」
ゼロはそのような反応が広がる事を確認し、黒スーツに向かって言葉を放つ。
「頭が高いですわ。ひれ伏しなさい。」
その言葉で黒スーツは突然地に落ちる。
「貴様…何をしたぁ…。」
ひれ伏しながらも黒スーツは同じく降り立ったゼロに問いかける。
「カリスマによる言霊。条件はあれど自分より弱い生き物を従わせる力ですわ。」
「そんな力でたらめ過ぎる!!」
「ほんと、でたらめですわよねぇ。でも実際にあった力ですわ。」
ゼロは男に背を向け話す。
「これは一つの王国のお話でしてね、ある日国に対してクーデターが発生した。見方であったはずの兵士までもが加担し、王族は瞬く間に殺されていった。その中最後の一人であった王の末娘が殺されそうになった時、たった一言で反抗戦力を鎮圧した。『跪け』と。」
黒スーツの男はゼロが話し込んでいるのを好機と捉え、這いつくばりながらもゼロに近づいていく。そして光った手がゼロの左足に触れ、男は笑った。
「あら、ごめんなさい。そこにはちょっと借りた力を増幅して張ってあったのだけど、気付かなかったかしら。」
「な…に…?」
男の顔が『強制』が発動しない事に驚きの表情へ変わる。
「ちょっと『拒絶』の力をね?」
そうニッコリと振り返り男を見下ろす。男の顔は絶望に染まっていく。
「同じレベルの力はより強い方に軍配が上がる。それではあちらの世界でお元気で。愚かな愚かな界有者さん。」
「おのれぇぇぇぇぇ!!!!」
そして黒スーツの男はこの世界から『拒絶』された。




