23
現実世界でのダイヤはただの会社員だ。彼女は人一倍の努力をして仕事をこなし、本来であればすぐにでも一般社員よりも昇格していたはずだった。…そう。はずだった。
彼女の功績を周りの人間が横取りし、そして彼女には不出来な社員であると誇張した。上司もそれに便乗し、決して彼女の昇格を許さなかった。
会社でもそんな扱いを受けていた彼女は家でもかなり厳しい立場にあった。
両親と祖父母、兄は働かずに家でのうのうと暮らし、妹二人と弟は学校に通っている。ダイヤはその家族の為に金を稼いでいる。家で食べては寝ての生活を繰り返す両親と祖父母。部屋に引きこもりゲーム三昧の兄。欲しい物があれば祖父母にねだりダイヤに買わせる姉妹。家族のほとんどがダイヤを金づる、または自分以下の存在と認識している。ダイヤにとっては弟のみが唯一の救いだった。そんな弟に対して他家族は自分達と同じになるように弟に色々吹き込んでいる為、それも時間の問題と思われた。
そんなダイヤに一つの出会いがあった。それがVRと称されたゲームであった。まるで世界に入り込んだかのような体験が出来ると有名になった頭に装着する形のハードを使用したソフトがあり、ふと目に入ったそれを仕事帰りに買ったダイヤはどうせ深く眠る事も出来ない夜に早速起動した。
始めてゲームをプレイしたダイヤは感動を覚えた。豊かな自然、自由に暮らす人々、そこはまるで理想郷であった。ダイヤはゲームの内容を確認した通り人々のお願いを聞いて回り、それを一つずつ解決していった。そして気が付けば王国の騎士団の団長に任命されていた。部下は副団長以外は皆自分と同じプレイヤーであった。そんな騎士団の団長となったダイヤは書類仕事や賊や魔物の討伐を行った。部下の参加率はとてもいいものでは無かったが別に自分一人でも構わなかった。賊や魔物の討伐後、国の住民達に感謝されるのがとても嬉しかった。書類仕事の時には副団長が共にいてくれてダイヤの事を労ってくれた。そんな生活を過ごしたダイヤはいつしかこの世界の事がとても好きになっていた。
自分の評価をされない現実世界と自分の評価がしっかりされる仮想現実世界。ダイヤは仮想現実の方が本当の現実だったらいいのにと何度も思っていた。
「あなたが…『常越者』…ですか?」
ダイヤは聞いた事の無い声に呼びかけられた気がして顔を上げた。そこには輪郭がぼんやりとした白い光が存在していた。
「あなたが…こちらに味方してくれる唯一の子ですか?」
再びかけられた声にダイヤは少し戸惑いながらも答えた。
「常越者というのは分かりませんが、少なくとも私はあちらの味方ではありません。」
「そうですか。…私の世界の者達を守ってくれてありがとう。」
「礼は大丈夫です。私は結果的に守れませんでしたから。」
ダイヤはかゆとギルが抑えている前線を見る。二人は押されながらもなんとか持ちこたえている。
「やっぱり、私では守る事なんて出来ませんでした。自分一人でもなんとかなるって思っていた自分が馬鹿らしい。」
「あなたがそう思っても実際あなたに救われた命が多くあります。…酷なお願いになりますが、再びあなたの力を貸してはくれませんか。」
白い光は彼女にてを差し伸べる。しかしダイヤはその手を取る事が出来なかった。
「私には何も出来ません。力が無くては…何も守れない。」
「だったら、力があればいい?」
「え?」
ダイヤの横にいたれいが会話に混ざって来た。
「ダイヤさんは、力があればまた戦えますか?」
「それは…。」
ダイヤは怖かった。また力が無くなって守る事が出来なくなる事が。
「どうか、この世界を守る為に…お願い…します。」
白い光はダイヤに頭を下げる。その姿を見てダイヤは再びギルの言葉を思い出す。
「守るべき物を…守る為に。」
その言葉を思い出すと不思議と勇気が湧いてくる気がした。
「…わかりました。私でよければ力を貸します!この世界を、守る為に!」
「…ありがとう…ございます。」
白い光の表情などはまったく分からなかったが、とても嬉しそうに見えた。
「れいさん。もし可能ならば、私に力をくれませんか。また戦う為の力を。」
「はい。実際の所賭けみたいなものだからあまり自信は無いけれど、頑張ります。」
れいはそう言って前線の方に視線を向けた。




