均衡を崩す
私は思った事を言葉にする。
「想像が創造へと至る?そうかも知れないな…。総ては想像から始まっているのだろうな。でもさ。【蠱毒】って、かなり面倒だよな。100種集めんのとかさ…。」
「まぁ。そうだな。でも其れだけの事をして迄も、その対象を呪いたいと云う心の現れなんだよ。執念が必要だと云う事だね。」
とー。彼は返した。
部屋の隅にある埃を被っている壺からー。
カサカサと音がしている様な感覚が未だ残っていた。
あの中には虫がいるのだろうか?1匹?それとも…。
まぁ。元々がね…。彼はそう言ってペンとノートを取り出した。
【蠱】と云う漢字を書き込む。
「【蠱】と云う字には意味があるんだよ。【蟲】と【皿】に分けてみる…。【皿】とは容器の意味があるんだよ。そして【蟲】とは、【虫】では無く、生き物を意味している。容器の中に生き物を詰め、共食いさせる事を現しているんだ。意味としては。」
①穀物につく虫。
②まじない。みこ。
③そこなう。
④まどわす。みだす。
とノートに文字を綴った。
「惑わす?乱す?」
「そうだね。さっき言ったじゃないか。均衡を崩すって。均衡が崩れる時は、いつも…。世界は惑い、乱れる。」
彼は指を鳴らす。それから壺を指さした。
「ほら…。想像してみなよ。あの壺の内には様々な種類の【蟲】が蠢き、互いが互いを喰らい合っている。あの壺の内には、ある【想い】が凝縮されているんだよ。最も根源的な欲望だ。生命なら何れしもが秘めている【生への渇望】だよ。」
彼の声質は低く。そして暗かった。
私は、【生への渇望】を持っているのだろうか?死ねないから生きている、ただそれだけなのだ。いや、生きているのだから、意識してはいないだけで、無意識に【生への渇望】とやらに、しがみ付いているのだろう。
「【生への渇望】に、しがみ付いているんだな…。」
心の内の想いが溢れて、零れた。
私の言葉に対して彼は云う。
「君も本能的に理解しているじゃないか…。【しがみ付く】とは【喰らいつく】からきているらしいよ…。」