人でなし
「まぁ。危険なモノだと云うのは理解出来ただろう?だから余り深入りしない方が君の為だよ…。」
彼は私に警告をした。
でも、私は人でなしなのだ。知りたいモノは知りたくなる。知らない方が良いと言われれば余計に知りたくなる。そんな性分だ。
「ソコまで聞くとさ。逆に、知りたくなるんだよ。具体的に教えてくれないか?絶対にしないからさ。」
「本当にしないと誓えるのか?まぁ。もう遅いんだろうな…。」
彼はそう呟き。
更なる言葉を詠みあげる。
「畜蠱と呼ばれる「蠱の作り方」があるんだよ。古い文献の【隋書】には、こう書かれている。【五月五日に百種の虫を集め、大きなモノは蛇、小さなモノは虱と、あわせて器の中に置き、互いに喰らわせ、最後の一種に残ったものを留める。蛇であれば蛇蠱、虱であれば虱蠱である。これを行って人を殺す。】これが【蠱毒】の術式だね。」
その言葉を聞いた私には違和感があった。
「ちょっと待て。【蠱毒】って云うのだから集めるのは、毒をもった生き物なんじゃないの?」
「違うよ。毒の有無は関係ないね。100種の生き物であれば良いんだよ。器も壺と限定している訳でもない。100種の生き物を閉じ込められるのなら何でも良い。要は100種の生き物を殺し合いさせ、共食いさせて最後に生き残った1匹が【蠱毒】となるんだよ…。まぁ。生き残った種族によって【蠱毒】は姿を変えるんだ…。」
彼は陰鬱そうな表情となる。
「蛇なら、蛇蠱となる。呪いたい相手に、想像を絶する苦痛を与える。方法は生き残った蛇を殺し、粉末状にして、飲ませるんだ。呪われた対象は、妊婦の様に胸や腹が張り、最後には飲まされた蛇と同等の大きな蛇の様な吐瀉物を吐いたり、体中を蛇が這いずり回っているかの様な感覚になったり、最後には6〜7センチの腫瘍が出来る。そして、ソレが動き回り体の内側から噛みつかれるような痛みに襲われる。」
私は想像する。私の臓物に蛇が這いずり回るのを…。
「虱なら、虱蠱となる。呪った対象の体中が耐えられない痒さに襲われ、掻き毟ると発疹の様な泡が出来る、それが潰れると其処から、大量の虱が出てくる。」
私は錯覚する。私の皮膚から虱が這い出でるのを…。
「犬なら。犬蠱となる。殺した犬の肉を食べさせる事で、呪いをかける対象は生きた儘、犬に襲われ喰われて死んでしまう。ちなみに、犬蠱は、日本の【犬神】と呼ばれる呪術に似ているね。」
私は妄想する。私は生きた儘、犬に食われるのを…。
「方法は様々ある。完成した蠱毒を細かく磨り潰し、飲食物の中に混ぜたり、完成した蠱毒を神仏の様に祀る事で、生き残った生物の神霊の力を借りて対象に呪いをかけたり、呪いたい家の軒下に埋めたり、生存した生物に呪う対象を襲わせたり…。本当に様々あるんだよ。」
想像が創造へと至る…。
彼はー。
そう呟いた。