呪いと呪い
「えっ?1つの言葉で2つの意味があるって事?」
私は口を半開きにしていたのだと思う。
倉木の眼鏡に映り込んでいた私はそんな姿だった。
「ん?語感の感覚で2つに感じるのだろうけど、【のろい】と【まじない】は同じだよ。」
倉木は人差し指を左右に、2回、3回と振っている。
「神仏、または不可思議なモノの威力を【借りる】。災いや病気等を起こしたり、また除いたりする術だね。悪意を込めるか善意を込めるか…。その違いで結果が変わるね。」
倉木は言葉を止めてー。
ノートにまた言葉を書き込みー。
【因果応報】
「この言葉は?どう云う意味?」
と私に訊いた。
「悪い事をしたら返ってくるって事だろ?」
違うよ…。それは【自業自得】だね。と倉木は云い。
文字を書き込んでいく。
「過去および前世の行為の善悪に応じて現在の幸・不幸の果報があり、現在の行為に応じて未来の果報が生ずる事。これが【因果応報】だよ。分かりやすく云うなら、善行なら幸福が。悪行なら不幸が生ずる。」
それならこれは…。倉木はペンを走らせる。
【塞翁が馬】
「これはー。人生の幸不幸は予測出来ないと云う喩え。」
倉木は、僕は何方も正しいと思う。と呟いた。
倉木は吐息を零しー。
また言葉を奏でる。
「僕が思うに、世界の幸福と不幸はバランスで成り立っている。そのバランスを、つまりはその均衡を無理矢理に崩そうとする事が【呪い】、【呪い】と呼ばれるモノなんじゃないかな。強制的な均衡の搾取とでも云うのかな。」
夜が滲んでいる。
朧月夜だ。世界の境界線が曖昧になった。