猫鬼
「【猫鬼】、猫の鬼と書く。またはマオグイと云われる。人間が呪詛の為だけ創り出したモノだよ。つまりは普通に存在していると云われてる魑魅魍魎とは違う、異端なる存在。古代中国から伝わる【呪い】になるね。」
「異端なる存在…。」
「そう。呪詛の為だけに産み出された呪物だね。」
彼はそう云い、深く息を吸う。
そしてー。
また言葉を唱える。
「【猫鬼】を創る方法として…。まず数匹の猫を一つの甕に閉じ込める。食料を与えずに共食いさせ、生き残った一匹を首だけ残して地面に埋める。眼前に食料を置き、ありつけない食料を求め藻掻く猫の首を切り落とし、その首を呪いたい相手の家の地面に埋める。すると、猫の怨念は【猫鬼】となり、その家の人間を呪殺する。」
「ソレって…。【犬神】と【蠱毒】の術式を混ぜていないか?」
そうだね。最初の方は蠱毒、最後の方は犬神だね。と彼は言う。
「それと…。もう1つ【猫鬼】には創り方があるんだよ…。」
彼の瞳は光を失う。吸い込まれるかの様な瞳へと変貌していく。
そしてー。
彼は語り始めたのだった。
「まず、深夜に墓地へと向かうんだ。自分の飼い慣らしている猫を連れてね…。そして、墓を掘り起こす。その墓に眠っているのは1歳前後で亡くなった赤子でなくてはならない。」
赤子の墓なのか?と私は訊く。そうだねと彼は冷淡に返した。
「その赤子の死体を掘り起こし、独特な呪術的歩行を行い、呪文を唱えながら赤子の死体の首を切り落とすんだ。その切り落とした首を猫の腹に埋め込み、再び呪文を唱える。すると、その猫は人面猫へと変貌し蘇る。蘇った人面猫は呪術師に絶対服従する呪物になる。」
私は頭の内でー。
また想像してしまうのだった。
夜が深くなっていく。
その暗く深い夜がー。
部屋の隅で蠢くモノを飲み込んでいった。




