人の想いを煮詰めた味
蛍光ランプが切れかけているのだろう。部屋の灯りは明滅して、時折ジジジと不快な音を奏でている。その音に混じり、ガサガサと何かが蠢いている、そんな気配がした。
「生きる事は喰らう事だよ。夢を喰らい。想いを喰らい。時には生命をも喰らう。故に生きると云う事は【何かを犠牲にする事】だよ。」
彼の声は闇夜に溶ける。夜は融解して、曖昧になる。
「【呪い】とは、境界線を曖昧にするんだ。生も死も。愛も憎しみも。夢も現も。幸福も不幸も。全ての境界線が消えてしまうかの様な錯覚に陥る…。だから均衡は崩れ惑い乱れる。」
夜空に浮かぶ月の色は。黄色?白?銀色?
朧月の輪郭は曖昧だ。
私は人の想いに流されない。人の事等、気にはしない。
「もう少しさ。簡単な方法で効果が得られる【呪い】って無いの?流石に100種の生き物を集めるのは面倒だろ?」
「簡単な方法?そんな都合の良いモノある訳ないだろ…。」
彼はそう云うと少し顔を歪ませた。そして、続ける。
「いや。1匹だけ生き物を用意するだけでも効果が得られる【呪い】はある。でも…。」
「でも?」
「ソレを実行するのなら、人をやめなければならないよ。」
彼の瞳は変わらずに暗く深い。
「あぁ。大丈夫じゃね?俺は元より人でなしだ。」
私は笑いながら、そう告げた。そんな私を、その瞳で覗く。
「忠告しておくけれど…。いや、警告だな。方法を教えたとしても、絶対に実行だけはしないでくれよ。【呪い】は存在はするし、存在はしない。そんな曖昧なモノだが、効果はあるんだよ。そう云う世界に必要なシステムなんだからな。」
「しないよ。ただ興味がある。知りたいんだよ。【呪い】と呼ばれるモノの先をさ…。」
はぁ。と彼は吐息を漏らす。
それから彼は、とある【呪い】について語り始めたのだった。




