ケンバン筋の殺害
Episode #5
土曜日の朝にケンバン筋に行くと、司がよく行くレストランの横のバーの前に黄色のテープが張られています。
母親に聞くと、金曜日の夜にバーの前で男性が刺されて、駅まで血を流しながら歩いて行ったそうです。
まだ血が道に残っている上をホースで水撒きをしているバーの人を見ていたのは司だけでした。
この辺りにはヤクザの組が二つあって、敵同士だそうです。そのためにこういう事が時々起こるので、この辺の人達には珍しく無いのかもしれません。
ヤクザの組は、司の両親の診療所から40m南に一軒、40m西にもう一軒があります。
時々怪我をしたヤクザっぽい人が診療所に来るそうですが、司はそれを見かけた事はありません。
ヒロちゃんの家の二階の窓からはこの華やかな通りがよく見えるので
『毎晩窓から眺めているんやろか? 』司は思いますが
ヒロちゃんはそういう話しをするより司と遊ぶほうが好きみたいなので、司もつい聞くのを忘れてしまうのです。
でも司はヤクザの組の前を通り過ぎるのが好きです。
西方の組は大きな建物なので門も広く開いていて、若い衆が出入りしている中を覗きたくてウズウズしています。
その組の前に有る質屋の窓には豪華な宝石が値札付きで飾られているのに、値札が下向きなのです。
南方の組は喫茶店をしていた面影が有ります。
そこには スピッツが番をしていて、司が前を通ると吠えながら追ってくるのです。
司は踵を噛まれたことがあるので、その向こうにある駄菓子屋に行くのが億劫になります。
そのスピッツは司以外の人は追いかけないので、司は人が歩いているとそばに寄って行き、一緒に歩くトリックを覚えました。
ヒロちゃんには同級生の男友達が近所にいないので、遊びは司とばっかりですが司の女友達とは遊ばないみたいです。
司が自転車で遠乗りをするのでヒロちゃんはその冒険が好きで、それが彼の退屈しのぎなのかもしれません。
最近は、ヒロちゃんの家の前にある三つのマンホールでするゲームが流行っています。
マンホールからマンホールまでケンケンで走る途中にタグされるとタグ役にされるのです。やっぱりみんな退屈していたみたいで、このゲームには十人程が参加しています。
車が通る二本の道が交差している真ん中のマンホールなので、大型車が来る度にゲームがストップします。
この交差点がケンバン筋と呼ばれている地域のど真ん中なのです。
つづく