夜世界
Episode #4
"ケンバン筋" が柄が悪い所と言われる一つに飲み屋が多いことです。
仲良しのひとちゃんの母親もスナックを経営していて、その店の奥に住んでいるし、五年生の美人の女の子のお母さんもバーを経営していて、その二階に住んでいます。
ひとちゃんの母親は夜になるとお化粧をして綺麗になり、昼間のおばちゃんから夜のママさんに変身するのです。
ひとちゃんの父親は一回見た事があります。何か怖そうで、細身で、ヤクザみたいな感じですが、写真家かもしれません。
司がそう思うのは、ある日 ひとちゃんが父親の隠している箱を見つけて
「司ちゃん、見たいか?」と言うので,
「見たい」と言ったら,
開けた靴箱くらいの大きさの箱には、ヌードの女性が色んなポーズをしている写真がギッシリと入っていたのです。
「あんたのお父ちゃん写真家なん?」
「かもしれんなぁ」と、ひとちゃんも曖昧な返事しか出来ないのです。
ケンバン筋には細い路地が入り混じっていて、小さなバーやスナックが並んでいるので、その裏通りを散策するのが司の退屈しのぎの一つなのです。
ある日、一軒のバーの、のれんの中に最近知り合った16〜17歳の男の子が座っているのを見かけた司は、
「入ってもええか?」と聞くと
「ええで」と、その子が言うのです。
「あんた、ここの子?」
「そうや」
「ふ〜ん」
と言いながら司はカウンターの椅子に座っている男の子の横に座ってみました。
カウンターの上には小皿にキャベツが盛ってあり、トンカツソースが別の器に入っているので司はそれを食べていました。
暫くすると、そのバーのママさんが帰ってきてその男の子の口にキスをするのを見ました。
司は人がキスをするのは映画でしか見たことがないのです。
そのママは30前後に見えるので、男の子の親だと若すぎるし、母親が子供の口にキスをするのを見たことが無いし... と、司の頭の中は混んがらがってゆきました。
後でヒロちゃんにその話をすると
「あの子は ママさんのコレやで」と言いながら 小指を上げるジェスチャーをするのです。
司は 母親と夕食の買い物に行く道で
「お母ちゃん、これって何よ?」とヒロちゃんがしたように小指を上げて見ました。
「それは彼氏か彼女の事とちがうか」と言われて
初めて納得する司は、ヒロちゃんが司の知らない事を知っているのを感心するのでした。
つづく