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ツカサの退屈しのぎ  作者: J. E. Moyer
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保育園と自転車の夏

Episode #19

小学校三年生の夏に妹のサナギを保育園に送り迎えする仕事が司の責任になりました。


お母ちゃんは忙しいので「司、夏の間はあんたがサナギを保育園に送り迎えしてくれるか?」と頼まれたのです。保育園では昼食とおやつが出るので、朝ごはんはちゃんと家で食べていくのが司の責任になりました。


保育園は9時から始まり、3時に解散だと知った司は毎日のスケジュールをその時間帯に合わせて自分の遊びを計画しています。朝はサナギのおにぎりと玉子焼きと味噌汁が作ってあるので、全部食べるように見ています。司はご飯にアレルギー性なので、砂糖入りのホットケーキかジャムパンと牛乳が用意してあります。サナギがホットケーキを食べたいとダダをこねる事があるので、そんな日は、味噌汁を全部飲んだら半分やると交渉して玉子焼きを一つもらいます。


サナギは今まで子守りのおばちゃんの家に預けられていたので我が儘で、司はサナギに交渉術を教える事になったのです。サナギと過ごす時間が増えた司は、夕方にインスタントラーメンを作る羽目になるのですが、ガスのレンジにマッチで火をつけるのが恐いので、サナギにマッチのすりかたを教えました。「私がネジを回して、今や!言うたら火をここに持って行きよ」と言ってレンジの火をつけたのです。サナギには面白い遊びやと思わせた上、そうすることでラーメンを作って貰える代償だと思わせているのです。「お姉ちゃん、ラーメンの中になんか入れてえな!」とサナギは文句を言いますが、台所には冷蔵庫が無いので、野菜や肉類がなくお菓子か果物があるだけなのです。


毎朝自転車の後ろの席にサナギを乗せて、約1キロ離れた保育園につれていく司は、サナギがクラスに入って他の園児と遊び始めるまで保護者の顔をして見とどけてから、先生に挨拶をした後で帰る日課に満足感を覚えるようになりました。園児達が歌う【ミルクの歌】を司も覚えて、夕方にサナギを乗せた自転車で二人で歌いながら家に帰ることもあります。


司は昼食時やおやつの時間にも保育園に行き、中庭に面した大きなガラス扉の外から、サナギがちゃんと食べているかどうか調べることもあります。そして、昼寝の時間にもちゃんと寝ているかと確かめてから、隣の小学校の庭でブランコをしたり鉄棒で遊んだりしますが、時にはちょっと離れた中学校まで自転車を飛ばして行くこともあります。中学校には大きなバイパスを通って行く日と、裏道の田んぼの多い道をくねくねと走る日があり、駄菓子屋があると必ず5円で飴を買い、食べながら自転車を飛ばすのが司の好きなパスタイムなのです。保育園の先生に出会うと、サナギの話しになるので、先生も司が尋ねる前に報告してくれる様になりました。


夕方になると、わらび餅を売っているおばあちゃんが屋台を引いて家の前を通ります。鈴を鳴らして 「わらび餅 いらんか ~」と歌いながら歩くおばあちゃんは、いつも司とサナギが飛び出して来るのを知っているので、家の前をゆっくりと通りすぎて行きます。サナギが「おばあちゃん、きな粉をよーけまぶしといてな!」と言うので、司の分もきな粉が沢山まぶしてあります。


ある日、サナギにマッチのすりかたを教えたのだとお母ちゃんに話したら、「サナギがヤケドしたらどないすんの?」と怒られたので、『なんよ、自分は家におれへんくせに!』と思ったけれど、黙っていたら、ある日知らんおばちゃんが夕方に掃除と料理に来るようになったのです。おばちゃんは、買い物に行って夕食を作って、子供のスナックを作ってから帰る日課になっているそうなので、司のスケジュールが狂ってしまうのです。


司がサナギをつれて家に帰ると、そのおばちゃんが家に居るので、サナギは「おばちゃん、ラーメン作ってか?」と嬉しそうにしているばかりか、おばちゃんはそれに生きがいを感じているようです。司は『こんな知らんおばちゃんには何にも作ってもらいたないで!』と思っているのですが、サナギが満腹になった後はおばちゃんと二人で寝転んでテレビを観始めるので、『あの二人には付き合い出来へんワ!』と思いながら司は自転車に乗って出ていくようになりました。



家のすぐ前が国道2号線であるにもかかわらず、行き交う車も少ないので、両手を自転車のハンドルから離して200メートル程ぶっ飛ばす練習を始めた司は、家の前に建っている市の警察本部の前も猛スピードで走りながらお巡りさんに手を振るようになりました。「こらっ!」と怒るお巡りさんもいますが、暫く見ていてから本部の中に消えて行きます。

サナギは、怠けのおばちゃんとテレビばかり観るようになり、『このおばちゃんはほんまに悪い影響やで!』と司は思っています。今までは、サナギと積み木をしたり、ローカでプラスチックのボーリングセットを列べてボーリングをしたり、お金の数えかたを練習していたのに、このおばちゃんの怠け癖が一瞬にしてサナギの癖になったのです。サナギは10円玉が100円玉より値打ちがあると思っているので、お年玉でもらった100円を司の10円と交換して欲しいとぐずぐず言うので、お母ちゃんに10円を10個もらってサナギの100円玉と交換しました。「これ見てみいな! 100円は10円玉がこんだけ要るんやで」と教えてもまだ分かっていないようです。


秋頃になると、急におばちゃんが来なくなったので、どうしたのかとお母ちゃんに尋ねたら、おばちゃんは自分の持って帰る分も夕食を作っていたのでやめてもらったそうです。司にとっては、理由がどうであれ、あのおばちゃんが来ないことは喜ばしい事なのです。


3月になり、サナギが保育園から卒園する日が来ました。「お母ちゃん、私が卒園式に行ったるから、来んでもええで」と司が言ったので、忙しいお母ちゃんは来ませんでした。『私の方がサナギの親みたいなもんやから、私が卒園式に行って当たり前とちゃうん?』と思っていた司でした。そして、卒園式にはサナギがピンクのワンピースを着て、司は赤と緑と黒色のチェッカーのスカートをはいて出席しました。司は他のお母さん達に混じって、親のような顔をして立っている姿を誰かが写真に撮ったコピーを1枚もらいました。 『ええお母さんぶりやなあ』と自分で思って、ニヤリとした司でした。




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