靴修理屋のおっちゃん
Episode #18
ケンバン筋の交差点の南角に2m四角の小さな靴の修理屋があります。年寄りのおっちゃんが小さな椅子に座って毎日トントンと音を立てて仕事をしていますが、いつ見ても客が来るわけでもないのに、忙しそうです。
おっちゃんは自転車で朝に来て、お店を開けて、夕方迄座っています。
ある日、ヤクザのおっちゃんが靴屋でスリッパの後方に金具を付けて貰っているのを見ました。すると、歩いた時に音がしています。ヤクザのおっちゃんたちは、頻繁に司のお父ちゃんの診療所の前を通って駅前のパチンコ屋の方に歩いて行く時に、カランコロン、カランコロン と音をさせているのです。
ズボン姿で、お腹には腰巻きをして、それがズボンの上からはみ出していて、多分その中に財布とナイフも入れているのだろうと司は想像しています。
司もサンダルを履く時に、カランコロンと音を立てたいと思っていました。ある日家からサンダルを修理屋に持っていき
「おっちゃん! このサンダルに金具付けてか?」と訊ねる司に
「なんで金具が付けて欲しいんや? やめとき!」と言って相手にしてくれません。
「こないだヤクザのおっちゃんのサンダルに金具付けとったん、見とってんで。私もカランコロンと音さして歩きたいねん」
「あかん あかん!」と言って、仕事の手を止めずに司を無視しています。
あかんと言われると、ヤクザの履くサンダルの音が余計に耳に入ってくるのです。
ヤクザのおっちゃんは、わざと足を引きずって音を出して、
『おい! そこのけ!ワイが通っとるのんが分からんのか!』と言っているようで、司もその歩き方を真似するのですが、音が出ないと、凄みが無いのです。
一週間が経ち、司は修理屋の前でおっちゃんの仕事を見ていました。
「なんやねんな?」とおっちゃんは司を見ずに訊ねます。
「おっちゃん、このサンダルに金具を付けてくれるか?」
「前にあかん言うたやろ。あんたもしつこい子やな」と言って仕事の手を止めて、司を見上げています。
「来週なったら付けてくれるか? また来るで!」と諦めない司に呆れ顔で、
「サンダル!」と言って手を差し出しています。
カランコロン カランコロン と司のサンダルがケンバン筋の交差点を行ったり来たりするようになりました。ヤクザのおっちゃん達も司の音に気付いて苦笑しています。
つづく




