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ツカサの退屈しのぎ  作者: J. E. Moyer
17/19

女やからや! 男やからや!

Episode #17

あのお兄ちゃんがこちらに向かって歩いて来ます。


お兄ちゃんは昔、司のお父ちゃんが働いていた病院で働いていたけれど、今はケンバン筋のパチンコ屋で働いています。



ケンバン筋にはパチンコ屋が4店あり、駅前のパチンコ屋を数えると6店になります。その上にバーやナイトクラブが多いので、夜はネオンが明るく灯り、賑やかな場所です。



司のお父ちゃんの働いていた病院は山の上に建っていました。山と言うより高い丘みたいですが、一応は山手町の名のとうり、山なのです。


山の上には、病院、中学校、そして病院の職員の寮がありました。


司の両親も寮に住んでいて、司は側にあるブランコと滑り台のある遊び場で近所の子供達と遊びました。


3才位になると、ずーっと遠くにある山の土を掘っている機械を見て、そこに行ってみたいと思うようになりましたが、徒歩では遠すぎるので諦めざるを得ないと思い、自分の股の短さを大人のそれに比べてみて、腹が立ってくるのでした。


ある日、裏道を見つけて、山の下まで降りる事に成功した司は、歩いて山を登ることが遠すぎるようで思案していると、バス停にバスが来たのです。バスの扉が開いたままでお客を待っている様子なので、司はバスまで歩いていきました。


「お兄ちゃん、山の上まで乗せて行ってくれるか?」と訊ねると、


「あんた何処に住んどるんや?」と運転手のお兄ちゃんが聞くのです。


「山の上から下りてきてんけど、しんどうて登られへんねん」


「そうか、ほんなら乗っていき」


こうしてバスに乗せてもらって山の上まで帰ることが出来ると知ったのです。バスのステップが高すぎて一人では乗れないので、運転手のお兄ちゃんが手を引っ張ってくれました。それをお母ちゃんに言うと怒られるので、それは司の秘密でした。司は4才になろうとしていました。



4才になると、夕方に 「火の用心!マッチ一本火事の元!」と大声で子供たちが拍子木を叩いて夜回りする仲間に入れてもらえるようになりました。


「私も大きなったから、何でも出来るねんで!」と胸を張って、昼間は走り回っているばかりか、夜になっても帰らないので、お母ちゃんが心配して探しに来る事が度々有りました。



ある日、近所の男の子達が5〜6人集まって大声で笑っているのが聞こえたので何かと思い、見に行くと、ポゴスティックをやっているのです。


「誰のポゴスティックよ?」と訊ねる司に


「あそこに座っとるお兄ちゃんのんやで」とジョージちゃんが言います。



みんな並んで番を待っているので、司も列に加わりました。そして、司の番になったのでポゴステイックの上に乗ろうとすると


「あんたは乗ったらあかんで!」とお兄ちゃんが言うのです。


「何でよ?」


「あんたは、女やからや!」



家に帰った司は


「お母ちゃん、ポゴステイック買うてか?」


「なんでやのん?」


「あのお兄ちゃんが、私が女やからゆうて、乗ったらあかん言うねんで!」



その後、ジョージちゃんのお父ちゃんがポゴステイックを買ったので、司と仲良しのジョージちゃんは毎日ポゴステイックで、何メーター前進出来るかをでこぼこ道で競争しました。


▪▪▪▪▪


あれから5年が過ぎ、町に引っ越した司が偶然にも、あのお兄ちゃんにバッタリと出会ったのです。


お兄ちゃんは司の事を覚えていないようですが、司は忘れていません。


そのお兄ちゃんが、司のお父ちゃんの診療所に向かって歩いているのを見た司は、建物の陰に隠れて待っていました。そして、お兄ちゃんが入口に着いた時、司が扉の前に両手を広げて立ちはだかりました。


「何すんねん?」とびっくりするお兄ちゃんに


「入れたれへんで!」と言って動きません。


「何でやねん?」とお兄ちゃんはいらつきを見せているので


「あんたは、男やからや!」


「男やからや? ... どう言う事やねん?」


「お兄ちゃん、私が女やからポゴステイックさしてくれへんかったやろ。女やったら入れたるで!」


お兄ちゃんは思い出したような顔つきのなりましたが、司を押しのけて中に入ろうとしています。


「あんた、男か、女か、どっちやねん?」と言って扉の前から動かない司の顔を暫く見ていましたが、クルっと背を向けて、来た道を帰って行きました。



『女を差別した仕返しやで!』と思いながら、司は心が晴々としたのでした。


つづく

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