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ツカサの退屈しのぎ  作者: J. E. Moyer
14/19

糸ちゃん と 小糸ちゃん

Episode #14

駅とケンバン筋の間に大きなお寺があります。


司の両親の診療所の前にある自転車預かり所の裏に、お寺の墓地があるので、時々塀を超えて、みんなでかくれんぼをする時があります。


ある日、お母ちゃんがお寺に用事で行く時に付いて行きました。


門をくぐると、右側に台所に続く大きな戸が開いていて、その向こうに大きな本堂が建っています。門の左側は中庭で、その奥にお墓があります。


お母ちゃんとお寺のおばちゃんが喋っていると、奥から女の子が出てきました。


「やあ、糸ちゃん、こんにちは」とお母ちゃんがその子に挨拶をしたので


「こんにちは」とその子も頭を下げるのです。


お寺のおばちゃんが 「司ちゃんも又遊びに来てやってね」と言うので


「はい」と司も頭を下げました。



「お母ちゃん、あの子、糸ちゃん言うの? ほんまの名前は何よ?」


「さあ... あの子の妹は 小糸ちゃん言うねんで」


「へえ... お母ちゃんも名前知らんの?」


▪ ▪ ▪ ▪ ▪


次の日に司はお寺の門をくぐって、台所に入って行きました。


「こんにちは! 糸ちゃん!」と呼ぶと 昨日の女の子が出てきたのです。


「糸ちゃん、遊びに来たで」と言うと、嬉しそうです。



糸ちゃんはお寺の外では遊べないみたいです。司には家の外に出られない生活が理解できないので


「あんた、お寺の中で何して遊ぶんよ?」と聞くと


「お母さんの手伝いしたり、ままごとしたり、本を読んだり...」


「...? お寺の中見てもええか?」


「うん。上がっておいでよ」


司には、糸ちゃんは友達がいないような気がするのです。


『大映のマチコちゃんも家の外で遊ばれへんし、糸ちゃんもやし、何でやろ? お金の有る家の子は損やなあ』と思っています。



本堂に入ると、糸ちゃんのお爺ちゃんがお経を上げています。その横を通り過ぎ、廊下に出て墓地のある方に行くと


「私、みんながここでかくれんぼしてるのを見たことあるのよ」と言うのです。


「あんたもしたいか?」


「したいけど、怒られるし...」


「あんたのお母ちゃんに、私と遊んでくる言うたら、お寺から出してもらえるか?」


「今度聞いてみるわ!」


「たこ焼き買うて、氷会社の水場に行って足を濡らしたら気持ちええで」


▪ ▪ ▪ ▪ ▪


「夕食迄には帰ってきなさいよ」 と言う糸ちゃんのお母ちゃんを背に、二人はお寺の門を飛び出しました。


糸ちゃんはケンバン筋の面白さを知らないので、先ずは、駄菓子屋でお菓子とタコ焼きを買うことにしました。


「おばちゃん、この子はお寺の子やねん。 今日はタコ焼き作ったってな !」


「駅前のお寺かいね?」


「そうや。今から水場に行くねん」


「ここのタコ焼きは美味しいね」と糸ちゃんは頬張っています。


「安うてようけあるやろ! おばちゃんは一日中焼いとるんやで」



お菓子を買って、水場に向かう途中で、5〜6人が ヒロちゃんの家の前のマンホールでケンケンをしています。


「糸ちゃん、ケンケンしたいか?」といって、ゲームの規則を説明すると


「したい!」と迷わずに答えるのです。


『糸ちゃんのお母ちゃんは、何で外で遊んだらあかん言うねんやろ? 鳥みたいに飛んで行く事も無いのになぁ』と糸ちゃんの笑い声を聞きながら司は考えていました。


▪ ▪ ▪ ▪ ▪


次の日に司は又お寺の門をくぐります。


「おばちゃん、糸ちゃんと外で遊んでもええか?」と言うと、OK が出たのです。



「今日は水場と河原に行こな。土筆取りが出来るで」


「何か遠足みたいやね」と言って、


スキップをしながら二人で水場まで行くと、仲良しのひとちゃんがお姉ちゃんのはつみちゃんと来ていました。


今日は洗濯のおばちゃん達が来ていないので、30mある小川の中を4人で競歩をすると、スカートもびちゃびちゃになってしまいました。



「線路の上を歩いて、河原の土手まで行こか?」と司が言うと、みんな大賛成です。


「土筆取ったらお婆ちゃんが料理してくれるから、司ちゃんの取った分もくれるか?」とひとちゃんが言うのです。


司は土筆を食べれる事は知りませんでしたが、土筆取り競争は大好きです。



線路の上を、落ちない様に歩くのは司たちが長い間積んできた(わざ)なので、最後まで線路から落ちないで歩ける者が勝つのです。


その内に電車が来るので、みんなで線路の横に待避する事になります。


電車のトイレから排出物が飛んで来る可能性があるので、後ろを向いています。司は、線路の上にトイレットペーパーが落ちているのを見たことがあるのです。


「糸ちゃん、線路の上歩いた事をお母ちゃんに言わんときよ。怒られるで」と一応注意しておきました。



土手の上には、土筆が一杯出ていて、ひとちゃんはスカートの上に乗せて帰ったのです。


帰りは何故か誰も線路の上を歩きたがらないので、ダラダラと線路横の砂利道を歩いて駅に向かって歩きました。



「お腹空いたなあ.. ニッケ裏のお婆ちゃんとこでお芋食べへんか?」と司が言ったので、


みんなで遠回りしてお芋を買いました。


二つ買って、四つに割って食べ食べ歩いて家路に着く頃には日が暮れかかっていて、糸ちゃんは走って帰って行きました。


「また遊ぼな!」


「うん。また遊びに来てね!」と言って糸ちゃんは角を曲がって消えて行きました。



つづく

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