絵画教室
Episode #13
母親の顔を、色がみを使ってモザイク調に仕上げる宿題が出ました。
机が司の机の直ぐ前なので親しくなったマユミちゃんが、物凄く綺麗に出来上がったモザイクを作って持参したのを見て、司は自分の作品に恥ずかしさを覚えたのでした。
ゴミ箱に捨てて、宿題を持って来なかった振りをしようかと迷っているうちに先生が来てしまったので、仕方無しに提出した作品は、出してしまうと、直ぐに他の事に気が向いてしまい、すっかり忘れていました。
次の日に、マユミちゃんのお母さんが学校に呼ばれて、マユミちゃんのモザイクを先生がお母さんの手に渡しているのを見た司は、先生とお母さんの会話を聞いてしまったのです。
先生は、お母さんがマユミちゃんのモザイクを作った事を知っていて、マユミちゃんに作り直すようにと言っているのです。
お母さんが帰る時は、マユミちゃんがすがりついて泣いていました。マユミちゃんはよく泣くので、みんなは見て見ない振りをする様になっていました。
マユミちゃんは、給食で嫌いな食べ物が出ても直ぐに泣くのです。
先生に残さずに全部食べてしまう様にと言われているので、仕方がなしに、司はマユミちゃんの分も食べてあげる様になっていました。でもミルクは冷めると臭いので、
「ミルクは自分で飲まんとあかんで」と司に言われたマユミちゃんは自分で飲まなければなりません。
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数週間後に、司のモザイクが県で三位に入選したと先生がクラスの前で言いました。
この学校からの出品作では唯一の入選だと言って、先生もニコニコ顔なのです。滅多に笑う事の無い先生なので、司も自分が偉くなったような気がして、背筋を伸ばして聞いていました。
そのニュースがPTAの会計を務めているお母ちゃんの耳にも入ったので
「司、あんたは絵の才能が有るから絵画の学校に行くか?」と言って、週末になると司を連れて、小学校の近くの二階建てのビルに行きました。そこには、若い女の先生が居て、司とお母ちゃんを迎えてくれました。
長いテーブルを隔てて座っている先生が紙を一枚とクレヨンを司の前に置いて
「好きな絵を描いてくれるかな?」と優しそうに言いました。
その時お母ちゃんが
「昨日練習した、牛が畑を耕している絵を描いたらどうや?」と言ったのです。
「花の絵が描きたいで」と言う司に向かって
「牛の絵にしなさい!」と命令調の母親にびっくりした先生は
「お母さん、ちょっと部屋の外で待ってて下さいね」とキッパリ言ったのです。
お母ちゃんが、信じられない!といった顔をして出て行った後で、司はピンクの花が咲く野原の絵を描いたのです。
「お母ちゃん、あの先生に絵を教えてもらうん?」と帰り道で尋ねると
「田中さんとこで、絵の教室が有ると聞いたからなあ。 今からちょっと寄って行こか?」と返事するのです。
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田中画廊店の二階で絵のクラスがあり、司は他の小学生達に混ざって週二回のクラスに参加する事になりました。
佳子ちゃんに絵のクラスの話をすると、「私も行ってええか?」と言って、佳子ちゃんも参加したクラスは七人で、司は今まで見たことが無い女の子達に出会いました。
ケンバン筋の友達と違って、みんな上品な言葉使いで、服装も自転車で走り回れない様な格好をしています。
画廊店でクレヨンのセットと スケッチブックを買い、道具を入れるバッグも買った司は、すっかり画家になったような気がして家に帰って行ったのです。
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一人の女の子はマチコちゃんで、画廊店の前にある大映という映画館の持ち主の家の子で、目がパッチリとして綺麗な顔立ちで、長く綺麗な髪をカールしているみたいに見え、何時もワンピースを着ています。
この映画館はワイン色のベルベットの椅子で、町で一番綺麗なインテリアの上に、外観も大きな支柱が何本も立っていて、大映の名にふさわしいのです。
「あんたのお父ちゃんが大映の持ち主なん?」
「お爺ちゃんが持ち主なのよ」
「映画がタダで観れてええなぁ」
マチコちゃんの家に遊びに行ったら、大きな門を入ると広い前庭と裏庭があって、そこで遊ぶのです。お人形や、ままごとキッチンセットがあるけれど、司には退屈で
「自転車乗って川原に行こか?」と言うと
「外では遊べないのよ」と残念そうに言うのです。
もう一人の女の子はレイちゃんで、寺町通りのお洒落なブティックの娘で、何時も季節に合わせて可愛い服を着て来ます。この子は目が細くて、短髪で、お店の話しが好きです。
「私の家はフランスやアメリカからの輸入品を売ってるのよ」と言うのです。
「ふ〜ん。お父ちゃんがフランスに行って買うてくるのん?」
「輸入業者から買うのよ。私も横浜まで行ったことがあるのよ」と得意そうです。
レイちゃんの店が絵画教室の帰り道なので、寄り道してみました。季節ごとに内装を変えるのだと言って、色々説明してくれましたが、お店に飾ってある物は司の家には無い物ばかりで、『早う帰りたいなぁ』と思いながら聞いていました。
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絵画の先生は若い男性で、カッコよくて面白いのです。
クラスの始めに、前のクラスで提出した絵を返してもらいます。先生の批評が裏に書いてあり、その下に【クレヨン】と書いてあると、未だ水性画を描くほど上達していない証拠なのです。
「先生 ! 何時になったら水性で描けるんよ!」と言うのが司の口癖になっています。
司はクレヨンに飽き飽きして来て、『もう辞めたいなあ』と思いながら行った日に、何時ものように絵の批評を見た時、その横に【水性】と書かれた字を見て飛び上がったのです。
先生を見ると、こちらを見て笑っています。
「先生! 水性ゆうて書いてあるで!」
「おめでとう!」
つづく




