小学校三年生の女の子
エピソード #1
司【つかさ】は小学校三年生の女の子です。母親の妊娠中にはきっと男の子が生まれるものと両親が信じていたので、 男の子の名前として選んでいた名前がそのまま彼女の名前になったそうです。
司は喘息持ちで、 二歳の時に真青になり、死の寸前まで行ったと母親から聞いていたので、自分はスペシャルな人間だと思っているばかりか、生と死の間をさまよった末に生きている事を誇りにさえ思っているのです。
あまり変わったことが起きることも無い、人口10万人の小さな町に生きている女の子には、ちょっとでも変わった体験をする事は神から選ばれたからかもしれない、等と思って退屈をしのいでいるのです。
そうです、司の人生は本当に退屈で、何かパーっとした事でも起こらないかなあ、と毎日自転車で町の隅から隅へと飛ばしまわるのが放課後の行動の一つになっています。
司の父親は内科医、母は看護婦で共働きなので、夜八時の夕食時迄は自由時間として何でもする事が出来るのが司の日常です。
近所には五年生の女の子達、三人の中学一年生や、その他に数人の仲良しがいます。 司は友人だと思っていても向こうは 虫けらみたいに司を見ているかも知れないけれど、そんな事はどうでもいいと思っているのです。
中学一年生の男子達の一人は自転車預かり所の息子で、何時もその三人が自転車にまたがって何かを企んでいて、退屈になると何かしでかす時に
「おい司、 一緒に来たいか?」
と誘ってくれるので、司はそれを待っています。
司の母の話では、司の両親の診療所は町でも一番柄の悪い "ケンバン筋" という地域の真ん中に位置しているそうで、"一番" と聞いて、又それがスペシャルだと思うので、司は "ケンバン筋" の人間である事に誇り持っています。
つづく