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腰掛け公爵令嬢のモットーは  作者: nobu
王都 御令嬢いちねんせい編
13/70

圧迫面接再び

しんと静まり返った部屋。

目の前には眉間に山脈を築いた御当主様。

ふーっ、と深呼吸が聞こえた。いや、違うな。ため息だろうな。


「…コーネリア」

「はい」


すみません、と続けそうになって口をつぐむ。

御当主様は執務室の机に肘をつけ、顔の前で両手の指を組んでいた。伏せていた目線をゆっくりと上げ、こちらをまっすぐに見据える。

やや前傾になった御当主様の顔は影になっていて、その眼差しが強い光を湛えていた。


…めっちゃ怖いな!


すぐさま視線を外し俯いた私は悪くないと思う。

絨毯の模様を目で追うけれど、視線の圧力は弱まらなかった。


「…なぜ呼ばれたか分かっているか」

「いいえ」


いや、心当たりはある。

メイに件の百合の魔石を見せたのがまさに昨日の夜だったからだ。

お風呂の後、濡れた髪にタオルをあててくれていた時に聞いたのだ。こういうものは好きかしら?と。


メイは暫く黙った後「手に取ってもよろしいですか」と低い声で聞いてきた。

もちろん、と頷き、気に入ったなら貴女に差し上げたいのだけど、続けた言葉は尻すぼみになった。メイがどこからか取り出した手袋をはめて丁寧に百合を摘み、掌に乗せて眺めていたからだ。


「…お嬢様、この存在を知っているのはお嬢様と私だけでしょうか」


もうこの時点で嫌な予感をひしひしと感じていた。

ぎくしゃくと肯定すると、どうかそのまま御心の内に留め置きくださいませと今までになく近い距離で懇願された。

そして、これを御当主様にお見せしてもよろしいでしょうか、と強い眼差しで続けられたら、あやべえなコレと察するというものだ。


そして翌朝呼ばれたのは書斎ではなく執務室。これは、フィッツロイ公爵として呼ばれたということだ。

気絶したい。したことないけれど。


「…お前の持っている、この石のことだ」


やはり、とも言えず、神妙な顔で御当主様が石を手に取る様子を窺う。

御当主様も手袋をしていた。


「屋敷にあったものではないな?…これを、どこで手に入れた」


御当主様は話しながらも視線を私から動かさない。ひとつの違和感も見逃さないと言うように。

何を話すべきか、何を話さないべきか迷う。迷って、とりあえず聞いてみる。


「…ものを知らず申し訳ありません。それは確かに私のものですが、なにか問題がございましたか」

「問題があるからこうして呼んでいる。これを、メイに下げ渡そうとしたらしいな?」

「そうですね、日頃から良く尽くしてくれているので。もしかして、人にあげては良くないものだったのでしょうか」


昨夜一晩ぐるぐる考えた結果、あの百合の執心がもしかしたら人にいい影響を与えないのかもしれない、という結論に落ち着いた。だってそれくらいしか思い浮かばなかったんだもん!

恐る恐る聞けば、今度は分かりやすくため息をつかれた。


「お前、この石が何なのか分かっているのか」

「魔石…でしょうか」

「それは分かるのか。じゃあこれは?」


御当主様が指輪を指す。


「それも…魔石ですよね」

「公爵家当主が代々受け継いでいる魔石だ。石の魔力を対価に特定の魔法を自動で展開するよう付与されている。分かるか?この大きさでこれだけの内包魔力量の魔石であれば、公爵家ですら家宝の扱いとなり得る。質の良い魔石とはそういうものだ」


そして、と百合をそっと摘むと揺らした。


「内包する魔力量は指輪にこそ劣るが、並の魔石を優に超えている。何より美しい。天然なのか成形したのかは分からないが、美術品的価値も極めて高いだろう。簡単に手に入るものではないし、金に換算できるものでもない。…だからこそ、これをもしお前が何処ぞの誰かから受け取っていたのだとしたら、私はその理由を知らねばならない。これは誰かの気紛れで受け渡しされるようなものではないのだから」


お前がメイにしようとしたように、と副音声が聞こえて慌てて再び視線を絨毯に戻した。


要は、私が思っているよりも遥かに魔石の価値が高いということだろうか。そんな貴重品を急に子供が持ち出してきたから、良からぬやつの悪だくみに乗せられているんじゃないかと疑われているのだ。


でもそうか、と思い返して納得もする。

魔石を身に宿すくらいの魔獣は古森の奥地に棲むようなやつらで、息をするように魔法を使う。人間だったら結構束にならないと太刀打ちできないかもしれない。魔力の吹き溜まりがあるようなところにはやっぱり手強い魔獣が棲みつくし、いい魔石ってあまり簡単に手に入るものではないのかも。


ちらりと御当主様を見やる。

盛大に眉間に皺を寄せた険しいお顔と目が合い、絨毯の模様の確認作業に戻った。

うーん、どこまで話したものか。

乾いた唇を擦り合わせて口を開いた。


「…その石は、私の出自が関連しておりまして」

「出自?」

「私は古森に縁がありますので」

「お前の母親のことか」


私の生まれのことを話題にして御当主様に臨むのはお会いした時以来かもしれない。


「母親というか、母親から受け継いだ特性と申しますか」

「…要領を得んな。何が言いたい」


うぐぐ。人間は欲深いから気をつけるのよ、という母の声がぐるぐる回る。植物に話しかけたら貴重な魔石取り放題ってアウトだよね。


ぐっと詰まった私の様子を目を細め眺めた御当主様は、ふむ、と顎を撫でた。


「…特性、と言ったな?この魔石はお前が精霊の血を引くが故の特性により入手したもので、第三者から受け取ったものではない。この石にはお前以外何者の思惑も乗っていないという理解で良いか」


頷いていいのかな。少なくとも後半は肯定しておくべきだ。

私以外何者も、のところでくねる百合の姿が浮かんで、慌てて打ち消す。心底どうでもいい。


我ながら音がしそうなほどぎこちなく首を振ると御当主様は眉間を揉み解した。

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