第39話 茂みの奥から
ガサゴソ茂みから音がしたら、間違いなく警戒しますね。
「…?」
茂みがガサガサしているので、そちらに目を向ける。
ー野良犬か何かか?なら、先輩達に危険が無いように、適当に手懐けた方が良いか?ー
そう考えて、茂みに近付いて行く。別荘の近くに野犬なんてものが彷徨いていては、シンシア達が怪我しないか、気が気じゃない。
「…。」
手懐けると言ったものの、扱いに慣れている訳では無い。
「おい、そこに居る奴。出て来い。」
犬なら従う訳も無いのだが、一応人である可能性も考慮し、呼びかけてみる。
「…にゃ、にゃあ…。」
すると、茂みから女性の声が聞こえてきた。
「ん?何だ猫か。なら、安心だな。…って、騙される訳無いだろ!?今どきベタ過ぎないか!?」
「ひゃぁ!?」
一瞬だけ回れ右しかけたが、全力で茂みの中の人物にツッコミを入れる。すると今度は、猫の鳴き真似では無く、普通の女性の声が聞こえてきた。
「あー、大声出してすみません。何で茂みの中に居るんですか?探し物ですか?」
草木が生い茂り、全く中の様子が分からないので、居ると思われる方向に向かい、訊ねてみる。
聞こえたのは、若い女性の声だったので、シンシア達に危害を加える、変質者という訳でも無いだろう。だから、少し気を抜いて、フレンドリーに話し掛けた。
「あ、いえ…貴方は、アイツらの仲間では無いんですか?」
「アイツら?何の事か分かりませんが、自分はつい数十分前にここに到着したばかりの、ただの観光客です。」
「そ、そうですか。」
ガサゴソ音がして、茂みの中から女性が出てくる。
「…あれ。」
中から出てきた女性を見て、どことなく既視感を覚える。
ー何処かで見たような…気のせいか?ー
「ボクのせいで、何だか驚かせてしまったみたいで、ごめんなさい。」
中から出てきた女性は、雄貴と同じくらいの年頃の少女だった。
オフホワイトのブラウスとスカートに、目深に麦わら帽子を被り、それを片手で抑えている。
土に汚れており、地面を転がったかのように見えた。
「ど、どうしたんですか?大丈夫なんですか?」
慌てて問う。結構オシャレをしているように見える少女が、こんなに汚れて茂みから出てくれば、誰だって慌てるだろう。
「あ、はい、何とか大丈夫です。ちょっと上の方から、転がり落ちてしまったんですが、受け身をとるのは得意なので、怪我もありません。」
『見ての通り』と、手を広げる少女。確かに見た感じ、流血などは見受けられないが、打撲とかしてる可能性はある。
「えっと、知り合いの別荘がすぐ近くなんですけど、良ければ寄って行きませんか?」
「…。」
少し驚いた顔をして、無言になる少女。その反応で、どう取られたのか察した雄貴は、大慌てで言い繕う。
「あ、別によからぬ事を考えてる訳じゃ無いですよ?もし今は痛みを感じないだけで、後になって動けなくなったりしたらあれですし…。」
だが、より一層怪しくなった感が否めない。こいうい時、口が上手い人は何と言うのか、勉強をしたいものである。
「…ちょっとこちらに来て頂けますか?」
「はぁ。」
早々に立ち去るかと思われた少女だったが、何故だか変な事を言い出す。明らかに不審な奴を近付けるとは、一体どういうつもりだろうか。
しかし、特に断る理由も無いので、大人しく従って近付く。
そして、残りの距離が2メートル程になった所で、少女は頷いて口を開く。
「…うん、貴方からは、嫌な匂いがしないので、お言葉に甘えさせてもらっても良いですか?」
「匂い、ですか?」
首を傾げる。匂いなんかで、人の善し悪しが分かると言うのか。そんな雄貴の疑問に、少女はちゃんと答えてくれる。
「実は私、鼻が良いので、何となくですけど、匂いで判断する事が出来るんです。今の貴方からは、嫌な匂いがしなくて、寧ろ良い匂いがしました。」
「…え、良い匂いします?途中、先輩から頂いた、コピ・ルアクを飲んだからかな?」
自分の匂いを嗅ぎながら呟く。コピ・ルアクは高級コーヒーで、ジャコウネコの糞から、消化されずに残ったコーヒー豆を採取した物だが、その製造方法からは、想像出来ないほどの、美味しいコーヒーである。
「あ〜、人の嗅覚では分からないと思います。少し私は特殊なので。」
ひたすら匂いを嗅いでる雄貴に、苦笑いする少女。
「へ〜、凄い特技ですね。超能力者だったりするんですか?」
何の気なしに聞く。雄貴の感覚では普通じゃないのだが、未だに超能力者は、奇異の視線で見られる事が普通である。なので少女は、少し答えづらそうにする。
「は、はい。」
「あ、そうなんですか。なら、えーっと、君も六通学園に通ってるんですか?」
そんな事に気が付かない雄貴は、少女を何と呼ぼうかと迷い、結局変な呼び方で聞く。
この日本で超能力者といえば、ほぼ全員、六通学園生であり、そうでないのは、政府に届出の無い、裏社会の人間たちのみである。
ごく稀に、力が微弱で、単純に気が付いてないというパターンもあるが。
そういう訳で、自身で超能力者と認めたという事は、六通学園の生徒である事は間違い無いだろう。既視感もそのせいだと考えられる。
「は、はい、そうです。というか、君もという事は、貴方も超能力者なんですか?」
「はい、そうなります。自分は、六通学園高等部1年A組、高月雄貴です。」
「あ、年下なんですね。私は、2年C組の石田咲です。」
同じ学校の生徒と知り、気を許したのか、少し笑みを浮かべて、自己紹介を返してくれるのだった。
新キャラ登場です。





