第17話 緊張の朝
いよいよ (?)学園編開始です。
朝、5時に目が覚めた雄貴は、洗面所で顔を洗いながら呟く。
「いよいよ、か。」
新居に移ってから、既に20日近く経過し、遂に4月8日月曜日となり、入学式を迎えた。
寮は十階建てのマンションで、5階までが男子、そこから最上階まで女子の部屋となっていた。
学年はごちゃ混ぜになっており、他にも幾つか寮はあるが、何の因果かとある人達と一緒の寮で、雄貴はこの先が思いやられるやら、楽しみやらで、複雑な気持ちにさせられた。
「はぁ〜。」
緊張を息に乗せて吐き出しながら、目を瞑る。
この4年間は、これから始まる約半年間の為に、費やしてきたのだ。自分がストーリーの中に飛び込む事への高揚感と、失敗した時への不安感が綯い交ぜになり、少し手が震える。
「駄目だったら壊す。先輩達は必ず救う。NHSは潰す。そう。たったそれだけだ。」
無理矢理、自分を奮い起こして、覚悟を決める。
「えっと入学式は、9時半からだったな。新入生の中に、アイツも居るって事か。」
アイツとは勿論、まだ見ぬ主人公君の事である。見た目や雰囲気で、何となく分かるとは思うが、キャラ設定の時に、名前を変えられたか記憶に無い為、一体どんな名前になっているのか分からないのだ。
そして、クラスも一緒になれれば良いが、果たしてそう上手くいくのか。
ここの所はかなり運次第な、博打である為、ただ祈る事しか出来ない。
「軽く朝食でも食うか。…にしても、先々週の先輩とのフレンチ。あれは惜しい事したなぁ。とんでもない金額だったし。」
あれからシンシアとチャットでやり取りし、固辞するのを何とか説得して、自分の分だけは払う事に成功していた。その際、値段を見て、少し目眩がしたのは、仕方の無い事であろう。
幸いな事に、あまり無駄遣いせず、更に対策課の給料が多額だった事もあり、痛くも痒くも無かったが、あんまりそういう価格帯に慣れてない雄貴の心臓には、悪いものであった。
「おっと、飯を食べないと。」
思考が良くない方向に向かってるのを自覚した雄貴は、かぶりを振って朝食の準備をする。
朝は米派なので、炊いておいたご飯を茶碗に盛り、インスタントの味噌汁に、だし巻き玉子、ウィンナーを用意する。
「うん、いつも通りが1番だよな。いただきます。」
緊張を感じてはいるが、何かを変えて、それで初日からやらかしても仕方が無い。
ゆっくりと、味わいながら食べる。
行儀は悪いが、例のノートを広げて、初日の流れを見る。
ーこの後は入学式で、軽くオリエンテーションがあると。ここで主人公君は先輩に何故か声をかけられると。確か理由は、自分のせいで命を落とした少年に、少し似ていたから。流石にこの話は、直接聞けなかったな。ー
ある事件で、自分の為に命を張って行動し、結果として命を落としてしまった少年。本編では、少年の身元や状況について、詳しく掘り下げは無かった。回想の様子から察するに、何かの犯罪に巻き込まれたようだが、詳しい事は分からない。
兎も角、そんな少年が犠牲となったお陰で、今の自分はあるのだと、強く己を律し、自分に厳しく、他人に優しく接しているシンシア。
どこまでも自分に自信が無く、 常に、死んだ少年に誇れる自分で居るかを問い続け、日々努力を重ねているが、主人公君にその面影を感じ、段々と惹かれていくというストーリー展開である。
ーま、主人公君は天涯孤独の身だし、その関係者では無いと思うけど、先輩に想われるだなんて、羨ましい奴だぜ。ー
ストーリー通りなら、もう亡くなってる筈なので、羨ましいもクソも無いのだが。
そんなアホな事を考えながら、雄貴は箸を進める。
「ま、今日に関しては、俺が手助けするまでもなく、無事にイベント消化されるだろう。」
態々口に出して言うが、余程緊張してるのだろう。
今日で躓いていたら、お先真っ暗であるのだから、それも当然であろう。頑張らねばならないと、静かに闘志を燃やしながら、食事を終えるのだった。
そして、暫くの間ぼーっと過ごして、気分を落ち着かせる。途中、ゴミ出しをしたり、家事をこなすが、いずれも上の空の状態であった。
「さて、少し早く向かうか。」
入学式は9時半からで、現在時刻は7時半と、少し早いが、人混みはそんなに好きでは無いので、もう出る支度をする。
出来れば、主人公君の顔と名前を、さっさと把握しておきたいので、少し手がかりを探るつもりでもある。
鏡の前でちゃんと身だしなみを整えてから、玄関へと向かう。
「…ふぅ。行ってきます。」
誰も居ない部屋の中に向かって言ってから、雄貴はドアノブに手を伸ばす。
「はい、行ってらっしゃい。」
「…はぃぃぃぃ!?」
誰も居ない筈の部屋の中から、女性の、それも良く知る人の声がして、びっくりした雄貴は慌てて振り向く。
「え、あ、あれ?若しかして、私が居る事に気が付いて無かったんですか?」
振り向いた視線の先には、一緒の寮になった、とある人達の1人であるシンシアの姿があった。
「な、何で先輩が俺の部屋に!?」
「え、チャットを見てなかったんですか?了承の返事は来た筈なのですが…。」
「…ホントだ。つい上の空で行動してたみたいです。」
チャット画面を見ると、シンシアからの『部屋を訪ねても良いですか?』という問い掛けに対し、『はい』とだけ返してあった。
ーどんだけ緊張してるんだよ!?確かに元の世界でもたまに、『あれ?返したっけ?』ってことはあったけど、よりによって先輩とのチャットでやらかすとは!ー
「大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫です。こういうのは、たまにあるんで気にしないで下さい。」
「たまにあるんですか…。」
シンシアの何とも言えないといった風な表情に、雄貴は少し悲しみを覚えるのだった。
またまたシンシアさんが登場です。





