漫才「物語」
スーツ姿の30代男性2人組での漫才
ボ=ボケ
ツ=ツッコミ
二人「みなさんこんにちはー」
ボ「宇宙暦511年」
ツ「急にどうしました?」
ボ「果てしなく広がる宇宙には」
ツ「何かいきなり壮大な物語を語り出しましたね」
ボ「星が1つも存在していなかった」
ツ「おお、予想外の展開ですね」
ボ「人も誰一人として存在せず」
ツ「ほうほう」
ボ「結果」
ツ「結果?」
ボ「何の物語も無かった」
ツ「君、話する気あるの?」
ボ「紀元前9000億年」
ツ「おお、今度は随分と古い話……ん? 紀元前9000億年?」
ボ「地球はまだ出来て無かった」
ツ「だよね。紀元前9000億年なら地球はおろか、宇宙すらもまだ誕生して無いよね? つうか君、話する気無いでしょ?」
ボ「平成10年」
ツ「おっ、現代の話ですね」
ボ「朝起きて」
ツ「ふむふむ」
ボ「ご飯食べて」
ツ「ほうほう、どうなるどうなる」
ボ「夜寝た」
ツ「それ君が小学生の時に書いた作文じゃん! 同じクラスだったから覚えてるよ。君はそれで先生に怒られてたよね?」
ボ「令和元年」
ツ「お、今度は随分と最近の話ですね。つうか元年ってちょっとカッコいいですね」
ボ「5月1日」
ツ「まさに始まりの日ですね。そうか、元年の元旦って無いんですね。なんか不思議ですねぇ」
ボ「海は自らが溺れそうな程に、深い群青色の青さを世界に見せつけていた」
ツ「お? 文学っぽいのかな?」
ボ「燦々と輝く太陽の下、真っ白い砂浜ではパリピーらしき集団が時間も季節も関係無しの花火をしていた」
ツ「文学ではなさそうだね。つうか昼間に花火? 人に迷惑をかけそうな類の花火を想像しちゃいますね……大丈夫かな?」
ボ「パリピー達から100メートル程離れた場所には海に向かって男が一人、アカペラで以って叫ぶようにして歌っていた」
ツ「なんだかストイックさを感じさせますねぇ。海がオーディエンスって感じかな? 波音が拍手かな?」
ボ「短かく刈られた髪は輝くような金色に染められ、不自然なまでに全身が黒々と日焼けしているその男。夏でも無いのに真っ黄色のTシャツと真っ赤な短パン、そしてビーチサンダルという容姿のその男」
ツ「服の色からして季節はずれのライフセーバーの方かな?」
ボ「真っ黒のサングラスをかけたその男は周囲に誰もいないその場所で歌い続けていたが、男が何を歌っているのか、それは波の音に消されて全く聞こえない」
ツ「海はオーディエンスではなく、サイレンサーだったって事か……」
ボ「海沿いの道路では無機質な車の列が、陽炎の壁を作り出していた」
ツ「夏で無くとも海沿いの道は渋滞する事も多々ありますよねぇ」
ボ「良く見れば、それらの車の中には若い男と女」
ツ「若い男女だけじゃないよね? 家族連れも多いよね?」
ボ「いいないいな」
ツ「……」
ボ「本当にいいな」
ツ「……」
ボ「本当に羨ましいな」
ツ「物語とかでなく君の経験談ね? リア充が羨ましいって事ね? 単なる愚痴ね? つうか砂浜に繋がる階段付近でさ、一人体育座りで海を眺めてる君の姿が浮かんじゃったよ……」
ボ「令和2年」
ツ「お? 今度は随分と直近の話ですね」
ボ「8月7日」
ツ「それって明日じゃないですか!」
ボ「晴れ時々曇り」
ツ「ただの天気予報かよ!」
ボ「後、雨」
ツ「えぇぇ、雨降るの? 遊びに行く予定だったのになぁ」
ボ「所により渋滞」
ツ「道路情報も教えてくれるの? つうかその場所は何処?」
ボ「令和2年」
ツ「また最近の話? 天気の話ならもう要らないですよ?」
ボ「8月6日」
ツ「今日の話ですか?」
ボ「タケシ君」
ツ「私?」
ボ「お誕生日おめでとう」
ツ「あ……そうか……今日って……」
ボ「これからも」
ツ「はい」
ボ「よろしくね♪」
ツ「いや、まあ、こちらこそ……よろしく」
2人握手にて暗転
2020年08月06日 2版 字数不足を失念してたので追記……
2020年08月06日 初版
「第2回GETUP!GETLIVE!漫才・コント大賞」投稿作品
ちなみに宇宙の始まりは138億年前だそうです。そして地球の誕生は46億年前だそうです。なので「紀元前9000億年」というのは宇宙すらも存在していないという意味になります。つうか138億年前に宇宙が誕生したとか46億年前に地球が誕生したとかを推測出来る人達がいるという事が凄いなぁ。そもそも宇宙が誕生するとかしないの意味が分からない……