第2話 伝説の始まり
「そこまでだ。死にたくなければ失せるがいい」
目の前には傷ついた少女。
そしてそれを追い込む狼の姿を俺は捉える。
少女は年齢15-6位か。
俺より少し下と言った……いや、今の俺は生まれたてか。
まあ前世の俺より少し若いと言った所だ。
皮の胸当てにブーツ等を身に着けている事から、只の村娘などでない事はわかる。だが、冒険者にしては武器を手にしていない。右手から血を流している様だから、怪我をして武器を取り落としてしまったと言った所だな。
片や狼はかなりでかい。
狼を見るのは初めてだが、多分通常の物より大きいだろう。
サイズ的には虎を更に一回り大きくした感じだ。
まあそれでも、光と闇が合わさって最強となった俺の敵では無いだろうが。
「た、助けて……」
少女が俺に助けを求める。
勿論そのつもりだ。
但し名は名乗らない。
それが最強というもの。
「安心しろ。今そいつを始末して、お前を救ってやろう」
狼に警告はちゃんとした。
それでも逃げない以上、俺によって死出へと旅立って貰うしかないだろう。
俺は無造作に警戒する狼へと近づいた。
「何故だ?貴様は吸血鬼だろう?何故私の邪魔をする?」
狼が俺を一瞥し、そして口を開く。
これは驚いたな。
まさか狼がしゃべるとは。
流石異世界クオリティだ。
一瞬驚いてびくっとしそうになったが、俺は鋼の精神力で動揺を抑え込み。
そしてニヒルに笑う。
「今宵は月が美しいのでな」
そう言いながら空を見上げる。
そして見上げてから気づく、空にはどんよりと雲が揺蕩い。
月が見えていない事に。
大失態だ。
だが今更撤回は出来ない。
俺には見えている。
そういうていで話を進めて行こう。
何せ俺の伝説はまだ始まったばかりだ。
此処はまだその第一歩に過ぎない。
躓くにはまだ早い。
「気分がいいので、哀れな乙女を救ってやろうと思ったまでだ」
「ふん、吸血鬼の言いそうな言葉だな」
俺はその言葉を聞いて、内心ほっとする。
狼が突っ込みポイントに気づいていない事に。
それとどうやら、この世界のヴァンパイアは俺の想像道理らしい。
尊大にして気分屋。
それが俺の中のヴァンパイアのイメージだ。
正に俺にぴったりな種族と言える。
「さて、死ぬか去るか。好きな方を選ぶと言い」
知能がある様なので、もう一度警告してやる。
初回サービスという奴だ。
「吸血鬼と事を構えたくはないが、その娘には我が宝を盗まれている。見逃すわけには行かん。邪魔をするというならば……」
狼が牙を剥き、威嚇の唸りを上げる。
どうやら俺に挑むつもりらしい。
無謀極まりないとは正にこの事。
しかし一つ気になる事がある。
「娘。奴の言葉は事実か」
弱者を救うべくしゃしゃり出てきたが、相手が盗人となれば別だ。
ここで無条件に救いの手を差し伸べると、窃盗に手を貸したに等しいからな。
それは光と闇の伝説の始まりとしては、余りにもお粗末だ。
「そ、それは……」
少女が胸元に手をやり、俯く。
どうやら事実らしい。
女性をじろじろ見るのは最強のやる事ではない。
だからさらっとしか確認していなかったため気づかなかったが、よく見れば女の胸元に強力な魔力を宿した何かが見える。
「盗人を救う程、俺は寛大ではない。だがそれを素直に奴に返すというならば、お前の命は俺が保証してやろう」
此処で拒否する様なら。
残念ながら見捨てさせて貰う。
何故なら、俺には闇の力も宿っているからだ。
時には優しく、時には冷徹。
それが光と闇を併せ持つ俺の性質。
「駄目……これが無いと……妹が殺されてしまう」
「ふむ」
妹が殺される……か
どうやら只の盗人ではなく、訳ありの様だな。
なら話を聞いて見る価値はあるか。
「話しを聞かせて見ろ」
ちらりと狼へと視線を移す。
警戒態勢は解いてはいないが、いきなり襲ってきそうな気配はない。
どうやら俺のだす結論を待つ様だ。
こいつとしても俺との戦いは避けたいのだろう。
その気持ちは痛いほど分かるぞ。
誰だって、俺の様な最強とは戦いたくはないだろうからな。
「私には妹がいて……その子が魔術師に連れ去られてしまったの。返してほしかったら、森の主の宝を盗んで北側まで持ってこいって。それで私……」
「成程な」
森の主――狼はかなりでかい。
俺程ではないにしろ、その強さは相当な物だろう。
その魔術師は自分のリスクを肩代わりする駒として、この少女を選んだという訳か。
控え目に言ってもクズだな。
「話しを聞いていただろう?たとえこの場で宝を返しても、また同じような事が起きる。おれはその魔術師を始末する積もりだが……どうだ、俺に協力しないか?」
その魔術師がいる限り、何度でも同じような手合いが送り込まれてくるのは目に見えている。
この狼にとっても、始末しおいて損は無いだろう。
「我に手伝えと?」
「そうではない。この宝をお前に返してしまえば、魔術師はそれに気づいて姿を隠すかもしれない。暫くこの宝を借りたいと言っている」
「その言葉を信じろと?」
そのまま持ち逃げされる可能性を考えると、疑うのは仕方ない事だ。
だが俺はそんなちっぽけな真似などしない。
「我が名、マスターシャインダーク……そう、マスターシャインダーク・オブ・グレートレジェンドの名において約束しよう。必ずや邪悪な魔術師を滅ぼし、貴様にこの宝を返す事を」
名前だけだとだとなんだか物寂しい気がしたので、セカンドネームとラストネームも付け加えておいた。
こっちの方がなんか偉そうっぽくてカッコいい。
今日から俺はマスターシャインダーク・オブ・グレートレジェンドだ。
「マスターシャインダーク・オブ・グレートレジェンドか……良いだろう。我が名はウル。貴様の言葉を信じ、宝は預けよう。但し刻限は日が昇る迄だ」
成立だな。
初対面の相手を信じさせるとか、流石俺としか言いようがない。
「行くぞ娘」
俺は気取った感じに鼻で小さく笑い。
森の北側へと歩き出す。
さあ、魔術師退治としゃれこむとしようか。




