第20話 アイル
「もう集められたんですか!?」
冒険者ギルドでクエストの清算を行うと、受付の女性が驚いた様に声を上げる。
まあ本来なら丸一日はかかるクエストだ。
それを昨日の夕方に受けて朝一に持ってきたのだ、驚いて無理はない。
まあこれでも夜が明けるのを待ったぐらいなのだが、最強ならこれぐらい朝飯前だ。
「ああ、それと悪いがこの子の冒険者登録も頼む」
「よろしくお願いします」
ついでにゴーブンの登録を頼む
俺の言葉に反応し、少女に変身したゴーブンが丁寧な言葉づかいで頭を下げた。
変身前は大仰な言葉遣いの彼女だが、何故か変身すると普通の言葉遣いに変わる。
魂は肉体の奴隷などと言うが、そういう類の理由なのだろうか?
まああのへんな喋り方をすると無駄に目立つのでこちらの方が都合は言い。
余計な詮索は不要だろう。
「そ、その女の子をですか?」
「ああ、幼いながら腕は立つ」
実際そんじょそこらの冒険者程度では彼女には敵わないだろう。
ウルに比べると能力は低いが、それでも眷属に変えた際のヘイル程度の能力は持ち合わせていた。奴が金級なのだから、ゴーブンの強さもその辺りになるだろう。
「分かりました……手続きをします」
来るものは拒まずが冒険者ギルドの鉄則だ。
受付嬢は釈然としない表情だが、決まり事なので粛々と手続きを進める。
「マスター、ケーキが喰いたい」
ウルが口を開いたかと思うと、ケーキをねだって来る。
どうやら気に入った様だ。
「無理だな。店が開くのはまだ先だ。諦めろ」
「う……そうなのか?」
物欲しげに見ても無駄だ。
閉まっているのだから諦めて貰うしかない。
「それにお前は腹いっぱい食っただろう?」
「それは別腹だ、ケーキならいくらでも入る」
ウルがまるで人間の女性の様な言葉を吐く。
まあ狼とはいえこいつも雌だ、その辺りは人も魔物も共通なのかもしれないな。
「まあ時間に余裕があれば後で連れて行ってやる。今は我慢しろ」
「本当だな!約束だぞ!」
ウルの表情が崩れる。
余程気に入っている様だ。
変身前ならきっと千切れんばかりに尻尾が振られていた事だろう。
「お名前を伺っても宜しいですか」
「ゴーブ……アイルです」
受付嬢に名を聞かれて、ゴーブンは危うく元の名を言いそうになって訂正する。
彼女には、これから人の姿ではアイルと名乗るように言ってあった。
流石にこの見た目でゴーブンは、名前がごん太過ぎるからな。
「アイルちゃんね、身分を証明できるような物はあるかしら?」
受付嬢がちらりと此方へ視線を寄越した。
俺は腰に下げた袋から金貨を取り出し、黙って彼女に渡す。
「確かに確認させていただきました」
受付嬢はにっこり微笑むと手続きへと戻った。
金は万国共通の身分証だ。
此方は余計な手間が省け、彼女は懐があったまる。
正にwin-winという奴だ。
まあ社会的にはどうかとも思うが。
俺はヴァンパイアだ。
人間のシステムなど知った事ではない。
クエストの清算と、ゴーブン改めアイルの冒険者登録はつつがなく終了する。
さっさと階級を上げたい俺は、新たなクエストを受注し。
速足にギルドを後にする。




