表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/22

第18話 ゴブリンとキメラ

ゴルセタの西にある森。

正式な名は無く、通称モコモコの森と呼ばれていた。

その通称通り、ここには大量のモコモコが生息している。


モコモコは魔物ではあるが、実は草食だったりする。

その為、此方から刺激しなければ襲って来る事はない。

所謂ノンアクという奴だ。


見た目は巨大な羊と言った感じの姿で、大きい物は体高3メートル近くに達する物もいる。その犬歯は特殊な成分を含んでおり、薬の精製や錬金術などに用いられる様だ。


「流石に腹がいっぱいだ」


死体を放置するのもあれなので、ウルに食わせていたのだが2匹目でギブアップが入る。まあ結構でかいからしょうがない。この森にはコヨーテの様な小型の肉食の魔物もいるので――すでに何匹か始末した――放っておいても彼らが綺麗にしてくれるだろう。


「そうか、御苦労だったな」


俺はそれだけを言うと、南に歩き出す。

超聴覚と超嗅覚のお陰で獲物の位置は簡単に足ら得られる。

次の獲物は南だ。


「ん?」


その時何かの悲鳴が聞こえた。

それに獣の唸り声。

この森に入ってから聞く声だ。


「どうかしたのか」


ウルが不思議そうに聞いてくる。

超聴覚のレベルは俺の方が高い。

その為、彼女にはまだ聞こえていないのだろう。


「ああ、ちょっとな」


そう言うと俺は駆けだす。

その後をウルが黙って付いて来た。

正直クエストとは関係ないので放っておいても良かったが、少し気になったので様子を見に行く事にする。


木々の間を、風の様に軽やかに駆け抜ける。

生前忍者を目指して訓練していた身としては、森を駆け抜けるこの疾走感が溜まらなく楽しい。


どうせなら忍者の修行もしてみようか?

そんな馬鹿な事を考えている間に、現場に到着する。


「ゴブリンか、それと……」


目の前にはゴブリンが数体倒れている。

どれも全てこと切れている様だ。

一匹を除き。


そしてその生き残りに、巨大な狼が迫る。

黒い鬣に赤い瞳。

頭部には角が生え、その尾は蛇の姿をしている


「ウル。お前の親戚か?」


「馬鹿を言うな。あれはキメラだ」


キメラ?

キメラは確か獅子と鷲と蛇の混合生物だったような気がするが。

目の前の魔物は明かにそれとは違う。

どうやらこの世界のキメラと俺の知るキメラは別物の様だ。


俺達の声に気づき、キメラが此方を睨む。

その赤い瞳に殺気が宿る。

どうやら俺達も獲物と判断した様だな。


しかし俺は見た目が人間だから、獲物と勘違いするのも分からくはないが。

明かに自分よりでかいウルを見て怯まない辺り、かなり好戦的な魔物の様だ。


「しょうがない。相手をしてやるか」


一歩前に出た途端バーゲストが唸り声を上げ、その尾が俺の顔目掛けて飛んでくる。

尾は鞭の様にしなり、牙を剥いた蛇が俺の首筋を狙う。


「意識はどうなっているんだろうな?」


受け止め、手の中で蠢く蛇を繁々と眺めた。

蛇はシャーシャーと鳴き、俺を威嚇する。


「ぐぅるああぁぁ!!」


再びバーゲストが雄叫びを上げ、今度は本体が飛び掛かって来た。

俺はその首を、空いている手を使って無言で薙ぎ落す。


「死んだみたいだな」


頭部を跳ねられた本体がその場で崩れ落ちた。

すると掴んでいた蛇も、電池が切れたかの様に動きを止める。

命はきちんと連動している様だ。

まあどうでもいいけど。


「放っておけば死ぬ……か」


先程襲われていたゴブリンは背中に大きな傷跡があり、もはや虫の息だ。

このままなら確実に死ぬだろう。

俺はそのゴブリンの傍まで歩いて、その顔を覗き込む。

まだ意識はある様だ。


体格的には周りに転がるゴブリン達より一回り小さい。

恐らくはまだ子供なのだろう。


「子供を見殺しにするのも、あまり気分が良くないか」


ゴブリンは人型に近い魔物だ。

その姿のせいか、どうも情が移ってしまう。

俺は魔法を唱え、回復魔法をそのゴブリンにかけてやる。


勇者としてのレベルが上がっているお陰で、回復魔法は中位の物まで扱えるようになっている。低位なら流石に危なかったかもしれないが、俺の莫大な魔力なら中位でもこのぐらい回復させる事が出来た。


「さて、狩りに戻るか……ん?」


傷が完治した所で立ち上がり、再び狩りに戻ろうとするとズボンの裾が掴まれた。

犯人は今助けたばかりの子ゴブリンだ。

ゴブリンは体を震わせながら、必死に俺の足にしがみ付く。


まさか懐いたのか?


「マスターに保護を求めている様だな」


「ふむ」


一々ゴブリン如きに煩わされるのもあれだが、縋られて見捨てたとあっては最強が廃るという物だ。

ここは最強の器という物を見せてやるのも良いだろう。


「我が名はマスター・レジェンド」


マスター・レジェンド。

それが今の俺の名だ。


「我に服従するというならば、我が名において貴様の安全を約束しよう」


ま、言った所でゴブリンでは言葉は理解できないだろうがな。

重要なのはこのセリフを口にする事なので問題はない。


「ぎぃ……ぎぃ」


ゴブリンが小さく2回鳴いて頷いた。

返事を返した様に見えたが、偶々か?


「主に忠誠を誓うと言っている」


ウルが俺の疑問に答えをくれる。

そう言えば彼女には言語習得のスキルがあったな。

それでゴブリンの言葉が理解できたのだろう。

そして返事を返したという事は、喋れないだけで人間の言葉が理解できいるという事になる。


どうやらゴブリンは人間の言葉を理解している様だ。


「ふ、いいだろう」


俺はそう言うと、膝を付き。

ゴブリンの首筋に自らの牙を突き立てた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ