第13話 チョロイン
「ウル。宝玉を寄越せ」
俺はウルの方に右手を伸ばす。
「例えマスターだろうが……」
俺の言葉に,、ウルの瞳が険を帯びる。
どうやら俺が宝を奪うと勘違いした様だ。
勿論そんなわけがない。
「あいつの話をお前も聞いていただろう」
ヘイルを眷属に変え、俺は何故居場所が分かったのかその情報を引き出している。居場所を押さえられ続けると、面倒臭いと思ったからだ。
魔法か何か特殊な能力で監視されていたらお手上げだったが、話を聞いて見ればなんという事は無かった。
ウルの持つ宝玉。
そこに宿る特殊な魔力をトレースしていただけらしい。
要はその魔力さえ追跡できない様にすれば、問題は解決する。
「一々居場所を特定されるのは鬱陶しいからな。俺の魔力でその宝玉の魔力を覆いつくして、追跡できないようにする」
「……」
ウルは宝玉を渡そうとしない。
彼女は元々俺の力目当てで眷属になっている。
それはあくまでも宝玉を守る為だ。
だから俺の事をまだ心から信用してはいないだのだろう。
「やれやれ」
眷属である以上、俺の命令には逆らえない。
その証拠に、ヘイルも眷属になった事で洗い浚い全て俺にぶちまけている。
だが、無理強いは余り好きじゃない。
何とか俺を信じて貰いたいところだが、そう簡単にはいかないだろうな。
此処は素直に諦めるとしよう。
因みに、ヘイルからはそれ以外大した情報は得られていない。
大規模な裏組織ではあるそうだが、ヘイルは末端の構成員でしかなかったため大した情報を持っていなかった。
叩き潰すには色々と手間がかかりそうだ。
ああ、言い忘れたが。
勿論ヘイルは情報を引き出した後始末している。
明かに敵意を持って襲い掛かかって来たんだ。
当然だろう?
「渡さなくてもいいのか?」
手を引っ込め、諦めてて歩き出すとウルが訪ねてくる。
「無理強いするつもりはない」
「そうか……ならば」
そう言うと、ウルは喉を鳴らして口を開けた。
俺に向かって差し出された大きな舌の上には、宝玉が乗っている。
「俺に預けるのは嫌じゃなかったのか」
俺は宝玉を受け取り聞き返す。
「マスターなら強制する事も出来た筈だ。だがそうしなかった。だから信じよう」
ちょろ!
初めて会った時も直ぐに俺の言葉を信じたし、こいつちょろ過ぎ。
正にチョロイン。
いや、別にヒロインでもなんでもないけども。
「ふっ」
キザに笑ってから、俺は宝玉を魔力で包み懐に仕舞う。
胃液や唾液でべとべとしてて気持ち悪かったが、そこはあえて顔に出さず我慢した。
ここで宝玉をふきふきしたら格好悪いし。
これで憂いは無くなった。
前の街では救世の剣のせいで冒険者になり損ねたが、もう奴らの妨害は入らないだろう。
次の街でこそ冒険者になって、ランク上げに励むとする。
最高の冒険者にしてヴァンパイア。
超クールだ。




