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第12話 戦闘

魔術師達が魔法を詠唱し、複数の魔法が俺目掛けて飛んでくる。

魔法は火水風土の4属性だけだ。


「躱すまでも無いな」


俺はあえて躱さず、その全てをこの身で受けた。

耐性のお陰か殆ど痛痒は無い。


使われた魔法。

それに彼らの手にしている武器を見て確信する。

俺がヴァンパイアである事に気づいてはいないと。


もし分かっているなら聖なる力が込められた武器や、聖属性の魔法が飛んで来ていたはずだ。それが無い以上、敵は俺を普通の魔物だと思っているのだろう。


まあまだ早朝とはいえ、日中を歩き回っているんだ。

ヴァンパイアだと気づけという方が無理な話か。


魔法に続いて兵士達が俺達に切りかかる。

俺はこれも微動だにせず、全身で受けて見せた。

これら一連の行動は、兵士と自分との力量差を相手に知らしめると同時に、俺の防御力がどの程度かを確認する為の行為だった。


まあ多少喰らっても、超回復があるので問題無いと思った上での行動だったんだが……どうやら彼らの力では、俺に掠り傷一つ付ける事は出来ない様だ。


流石俺。

我ながら惚れ惚れする程の強さだ。


兵士達が動揺して俺から離れる。

ちらりと背後に視線をやると。

ウルが兵士達の剣を爪で弾き、ローキックで足の骨をへし折っている姿が見えた。彼女もまあ、放っておいても大丈夫そうだ。


「高みの見物とは気に入らんな」


ヘイルたちは武器こそ手にしているが、一歩も動いていない。

連れて来た兵士を捨て駒に、此方の戦力を見極める積もりなのだろう。

戦略としては正しいのかもしれないが、部下を斬り捨てる作戦は見ていて気分のいい物ではない。


「雑魚の相手を一々するのも面倒だ」


俺は素早く魔法を詠唱し、完成した魔法を解き放つ。


毒の霧(パラライズフォッグ)


辺りに黒い薄靄の様な物が掛かる。

毒を含んだ霧だ。


「うわぁ!?なんだこれ!?」


「ど、毒だ!」


兵士達が驚いて口元を押さえる。

吸わない様にしているのだろうが、皮膚から浸透するからまるで意味がない。


まあ只の麻痺毒だから、死ぬ事は無いだろう。

しかしこれは――


「マスター。臭いぞ」


「分かっている。直ぐに消えるから辛抱しろ」


毒霧超くせぇ。

匂いが染み付いて残ったりしないだろうな?

折角のクールなヴァンパイアキャラも、臭かったら全て台無しになってしまう。


「さて、残るはお前達だけだ」


他の奴らは全員毒で痺れ、動けず倒れ込んでいる。

だがヘイル達だけは何事も無かったかの様に此方を見ていた。


よく見ると彼らの体が薄っすらと光っているのが分かる。

恐らく、女魔導師が状態異常に対する防御魔法を使ったのだろう。


「流石に……街に堂々と乗り込んで来るだけはあるな」


それまで動かず此方の様子を伺っていたヘイルと戦斧(バトルアクス)を手にした男が前に出る。

同時に背後の女が杖を天に翳し、魔法の詠唱を始める。


「ウル、お前は手出しするな。俺が相手をする」


「わかった」


俺の頭上から雷が落ちる。

女の放った魔法だろう。


俺は魔力を籠めた右腕を頭上に翳し。

腕を振るってそれを弾き飛ばす。

別に直撃しても大したダメージは無さそうだったが、この方がカッコいいのでやってみた。


「おおおおぉぉぉ!」


大男が雄叫びと共に、振り上げた強大なバトルアックスを俺に向かって振り下ろす。

と同時に、横からヘイルが俺の首筋目掛けて剣を突き込んできた。


連携としてはまずまずなのだろう。

動きも有象無象の兵士達に比べれば遥かに良かった。

だが――


「なに!?」


バトルアックスを左手で受け止め。

ヘイルの突きを摘まんで止める。


俺と戦うには、彼等には速さが足りない。

それにパワーもだ。


パワーファイターっぽい男のバトルアックスの一撃も、トロールに比べれば大した事は無い。

例え直撃しても大したダメージにはならないだろう。


「くそっ!離せ!!」


ヘイルは武器を俺の指から引き抜こうと藻掻く。

だが無駄な努力だ。

その程度の力じゃ、百年引っ張っても俺から武器を自由にすることはできない。


「さて、お前達には2つの選択肢がある。服従か死かだ。好きな方を選ぶと言い」


改心して素直に情報を渡せば、命までは奪うつもりはない。

だが、最後まで抵抗するというなら死んで貰う。


「ふざけるな!」


やっと剣を奪い返すのを諦めたのか、ヘイルは剣から手を離し間合いを開ける。

これだけ力の差を見せつけられて折れないとか、大した根性だ。

感心する。


「俺達救世の剣(サーベランサー)は何物にも屈しない!」


興奮している為か、隠している事も忘れてヘイルが救世の剣(サーベランサー)の名を口にする。

まあ心音で気づいてはいたが、これで万一の事はなくなった。

殺した後、実は全然関係ありませんでしたとかだとあれだったしな。


「そうか……なら仕方ないな」


俺は自らの爪を伸ばす。

彼らを仕留める為に。


ヴァンパイアになったとはいえ、人を手にかける事に罪悪感が無い訳じゃない。

トロールを殺した時はもう完全に相手が化け物に変わっていたにも関わらず、2-3日夢に出た程だ。


だが馴れないとな。

俺は光と闇が合わさった究極の存在だ。


魔物は狩る。

でも人は殺さない等と、そんな不公平な真似を行う訳にはいかない。

逆らう物には等しく死を。


指先で掴んでいた剣を、勢いよくヘイルへと投げつけた。

彼は咄嗟に身を躱してそれを避ける。

だが――


「あ……ああ……」


魔導師の女が呻き声を上げた。

その胸には、剣が深々と突き刺さっていた。

ヘイルが避けたため、その背後にいた女に剣が突き刺さったのだ。


「ケレン!?」


仲間が殺された驚きから、ヘイル達に隙が出来る。

瞬間、音もなく間合いを詰める。

バトルアックスを持つ男が俺に気づいた時には、既にその首は宙をまっていた。


「あ、ああ……」


返り血を浴び、不敵に笑う俺をみてヘイルが後ずさる。

その表情には、先程までの強気な影は微塵も無い。


彼が俺に背を向ける。

だが彼の足がその一歩を刻むよりも早く、俺の牙が彼の首筋へと突き立った。

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