第9話 冒険者
「ここか」
目の前の大きな木造の建物を見て呟く。
かなり古い建物の様だが、その造りはしっかりしている様に見える。
門の脇には旗が掲げられ。
それには盾と二本の剣が交差するように描かれていた。
冒険者ギルドの旗印だ。
冒険者ギルドの始まりは、何でも屋だったらしい。
それが長い時を経て、世界中に巨大なネットワークを繋ぐ巨大な組織へと成長したのが今の冒険者ギルドだ。
その影響力は大きく。
場合によっては各国の国政にすら影響を及ぼす程らしい。
主な業務は魔物退治や素材系の収取等で。
それ以外にも護衛や街の力仕事への派遣、中には魔法の教師など多種多様な仕事を取り扱っている様だ。
俺がここへやって来たのは、当然冒険者になる為である。
人間の世界を見て回るにはやはり身分があった方が便利だ。
まあ低ランクの冒険者という肩書は殆ど身分証明としては役に立たないらしいが、それでも無いよりはましだろう。
冒険者にはランクというものが存在している。
ランクは下から銅・鉄・銀・金白金の5段階に加え、特別な貢献をした物に与えられる称号として神石の6種類が存在している。
昨晩酒場で聞いたヘイルの話によると、金クラスまで上がると出自不明でも一般市民程度の身分保障がギルドから受けられるらしい。
どうせ特にやる事も無い身だ。
暇潰しに冒険者ランクを上げるのも悪くは無いだろう。
お金も稼げて一石二鳥という奴だ。
それに神石という称号も心惹かれるものがあるしな。
俺は門を潜り、建物の入口へと歩みを進める。
ウルは俺の後ろにぴったりと付いて来ていた。
「本気で人間の世界で生活する気か?」
「嫌か?」
元が人間なので、人間の世界で生きて行きたいという欲求はある。
だがウルは人型に変身しているだけで、元は狼だ。
本気で嫌がる様なら、人間の領域での生活は諦めるとしよう。
「別に構わないが、私達が魔物だとバレたら面倒な事に成るぞ」
「ふ、バレなければ良いだけの話だ」
まあ最悪、面倒臭い事に成ったらずらかれば良いだけだ。
最強の俺がいる以上、人間に追い込まれる様な事は無いだろうからな。
「マスターがそれでいいと言うなら、従おう」
「そうか。では行くぞ」
俺は解放されている冒険者ギルドへの扉を潜る。
さあ冒険者生活の始まりだ。




