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白と赤の夢(1)

 赤い池に半身を浮かべ漂う夢を見ていた。

 辺りはどんよりと暗い。まとわりつく水はねっとりと重く、血のように温かい。


 皆が死んでしまったのは自分のせいだ、と思った。

 ──守れなかった。殺してしまった。大好きだった人と場所。何も、かも。

 後悔と喪失感で涙が止まらなかった。

 自分の命が急速に流れ出ていくように感じる。


 ──止められない。このまま、消えていくのか。

 ──相応の報いだ……。


 ぼんやりと、そう思った。




 不意に、池の水面に、す……と、波紋が広がった。

 十歳ぐらいの子どもがふわりと降り立つのが、ぼやけた視界に入る。


 男の子か女の子かは分からない。尖った耳に、白く腰に届く長い髪と、真っ赤な目をしている。

 暗闇に黎明の光がわずかに差し込む。その空の色を写し込み慈愛を讃えたように光る真紅の瞳を、ラズは虚ろな表情で見上げた。


 その子は、血の池の光景をゆっくりと見渡した。

 何があったのかを悟ったかのように、赤い瞳が哀しげに揺らめく。

 小柄な身体を折ってしゃがみ込み、ラズを血の池から引き上げ、白い髪が血でべっとりと濡れるのも構わず、守るように優しく、強く抱きしめた。


『……死なないでくれ。

 まだ、出会ってすらいないのに』


 声は聞こえないが、そんな気持ちが伝わってくる。

 ──だけど、止まらないのだ。血の池に、命がじわじわと流れて出て行く。


『約束、したじゃないか』


 朦朧とする中、その子が誰だったか、記憶をたぐる。


(そうだ……約束……したっけ……? 君のいる荒野にいつか行くって)


 真っ暗な視界にほのかに灯る、透き通った白い髪。

 ──約束は、守らないと。……だというのに、(まぶた)がとんでもなく重い。


『……荒野に来てくれ。君が、必要なんだ』


 強い思念とともに、背中に回された手に力が籠る。


(行かないと……いけない? ……だけど、僕にはもう、無理だよ……)


 心の中で、約束を守れないことを謝った。

 それでも、その細い腕はずっと傍にあって、ラズを離さなかった。




 いつまでそうしていたか、もうほとんどいのちを流し尽くしてしまった頃、とくん、と心臓の音がした。

 枯れた身体に、何か温かいものが、流れ込んでくるような不思議な感覚。


(───?)


 明るい光を目蓋に感じて、ラズはゆっくりと目を開けた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ・シリアス、残酷描写が上手い。 ・主人公のラズ君が絶望していく様子の描き方が残酷描写と相まって理解しやすい。 ・三人称だがテンポ良く進行していくので文章自体は読みやすい。 [気になる点]…
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