進むと決めて
温かい春風が吹く草原に立っていた。
──ああ、これはいつもの夢だ。
振り返ると、白い髪の子どもが立っている。
ラズと同じ、十歳くらい。目が合うと柔らかく微笑んだ。
ラズも、微笑み返す。
穏やかな風が二人を包み込んだ。
その子の長い髪がなびいて、尖った耳が見え隠れしている。
周囲は一面、膝下くらいの高さの草があり、遠くは霞がかかって見えない。
一歩踏み出そうとすると、背後で急に大きな足音と気配がした。
「巨人!? なんでここに?!」
その手には、見覚えのある大きな斧を持っている。
しかし、足に草が絡み付いて動けない。
力任せに草から足を引き抜くと、千切れた草の断面から赤い汁が血のように飛び散った。
「わっわっ、」
以前は野性動物を追いかけまわしたり國の皆と剣術の訓練をしたりして、血なんて平気だったのだが、少し前から血を見るだけで身体が強張るようになっていた。
たまらず尻もちをつく。
そんなラズと巨人の間に、白い髪の子が割って入った。
「危ない!」
母の姿と重なって見えた。
しかし、同じにはならなかった。
巨人の斧はその子のすぐ脇の地面をえぐった。
「……っ!」
跳ね返った土がゆっくり宙を舞う。
ラズは荒く息をしながら、少しだけ安堵を感じた。
その子は、落ち着いた動作で振り向く。そして、ラズに小さな花を差し出した。
その花は、巨人の子と一緒に見た、山脈の高いところにだけ咲く花だった。
そう認識した瞬間、白い花びらが大量に舞って巨人を覆い、花びらが飛び去った後にはあの巨人の子がいた。
巨人の子は笑って手を振って、霞のように消えていった。
──夢の世界は、以前はなんでも自分の思い通りになったのだが。
例えばそれで白い髪の子と空を飛んで遊んだりしたこともある。しかし、今は起きることをコントロールすることがどうにもできなかった。
「助けてくれて、ありがとう」
どうしてか、側にいてもお互いの言葉が届かない。だから、未だにその子の名前も知らなかった。
それでも、気持ちは伝わったのか、その子は構わない、と言うように首を振る。そして、草原の向こうを指差した。
「あ! 馬!?」
ラズが知っているのと違い、足が六本あった。
子どもの腕くらいの長さの角が、鱗でびっしりの頭に一本生えている。しかも近くで見るととても大きい。
轡をつけていて、促されるまま背中に登って手綱を握るとゆっくり走り出した。
馬より走行が安定していて乗りやすい。
草原の景色がみるみる加速して、風と一体になったかのような心地よさを感じた。
思わず笑みが溢れる。──自分を元気づけようとしてくれていることに、じんわりと感謝の気持ちが沸き起こる。
あの日、死ぬな、とずっと抱きしめてくれていた。
──何か、返したい。直接会って、お礼を言いたい。ちゃんと名前で呼び合いたい。
「あのさ!」
ラズは馬上で声を張り上げた。
もう一頭の馬で隣を並走しているその子は、声には気づかなかったが、ラズはそのまま続けた。
「会いに行くから! 待ってて!」