9.フロア1
ボス部屋の扉に向かう途中で俺は訊ねた。
「さっきの魔法のドライバーに吸血コウモリとくれば、ボスはバンパイア的な何かかな?」
「さあ、それは見てのお楽しみだ」
「吸血鬼でなく復讐鬼じゃ」
オヤジとコア子は訳知りな返事の後、共に「フフフ」と笑った。
「ときにおぬし」と今度はコア子が訊ねてきた。
「グラビティコアの影響で震脚が存分に使えておらぬな?」
「シン、キャク」とオヤジが心当たりなさげにつぶやいた。
コア子が質問は後といった具合に小さく頷き、俺の返事を待った。
「確かにそうだけど……何となくふかふか絨毯を踏んでるみたいな違和感があって。まあ序盤のフロア位なら使うまでもないかなと……」
「傭兵たちの話は興味深かった。そんな事を考えておるとはのう。そして我も語った。知識をひけらかした。今度はおぬしの番じゃ。ちょっとだけコアの制御を解くからやってみせよ」
「え、いいの? タブーじゃなかったの?」
「かまわん。ほんの一瞬、1フレームじゃ」
「それじゃ、お言葉に甘えて、鉄山靠でこの扉ぶち破りますか」
蝶番を破壊して扉を吹っ飛ばすと、待っていたのはヨロイ女だった。
「よくも置いてけぼりにしたわね!」
「いやあ自然な流れでね。悪気があった訳じゃあない」
ヨロイ女が向かってくる。交互に繰り出される双剣攻撃を俺は刀を素早く左右に振ってしのいだ。
「なかなかやるわね。阿呍絶叫丸なんてけったいな名前は伊達じゃないのね?」
「いや、単にこの得物のおかげさ。こいつは環境刀。鉄の5倍軽くて5倍タフい……いや、得意武器って意味での得物ではないな。借り物の刀だ。この部屋に来ていつのまにか出現した」
「例の未完結の力か」
「そうだ。手持ちの粗末刀ではどうしても片腕血だらけな展開になる」
「それでも勝てるような物言い……絶対勝つ!」
「しかしお前こそ。おい、コア子! 彼女はほんとに☆1なのか?」と俺は防戦しつつ背後に叫んだ。
「いいや、昨日づけで☆3にした。我の前衛を任せるのじゃ、当然じゃろ。ちなみにダンジョン内のみ有効じゃ」
「えっ?」とヨロイ女。
「浮いたな? 浮かれたな?」
連続攻撃のチャンスだった。
「痛ったー」とヨロイ女が双剣を手放し両手で頭を抱えた。
「……くない」
「そりゃそうさ。肉体的ダメージは無い、それが俺程度の未完結の力さ」
あっても最悪、翌朝5時に生き返るかなと思っていたのは内緒だ。