8.フロア1
天井からコウモリが三匹、高所まで吊り上げられたジェットコースターが描く優雅な曲線さながらに立て続けに向かって来た。
俺の胸元に迫るそれらをまずは袈裟斬りに叩き落し、振り上げで遠くへ弾き飛ばし、また叩き落した。
地面に落ちた奇数順はオヤジが槍で仕留め、再度向かってきた残りの一体も俺の迎撃に散った。
最初の部屋ということもあるのだろうが、コウモリがある意味わざわざ倒されに向かってきたのは、こちらに高所を脅かす武器があったおかげだろう。槍が無ければこうはならなかったはずだ。
俺は準備不足により敵に焦らされるのは厄介だなと危惧するとともに、オヤジの指導はこのフロアで終わり、恐らくはそこでお別れだろうと感じていた。
次の部屋も三匹のコウモリだった。しかし、一、三匹の軌道が高かった。
俺は一匹目をしゃがんで避けて、二匹目を打ち落とし、三匹目をジャンプで両断した。
戻り来る一匹目は高度を下げ、俺は難なく片づけた。
オヤジは地面のコウモリに止めを刺すと満足げに言った。
「よし。不用意なジャンプは危険だとちゃんと分かっているな」
「ああ、敵側の連続攻撃のチャンスだ」
「そうだ。しかしジャンプ攻撃にもちゃんとメリットはあるぞ。ダメージが2倍なんだ」
「そうか、それで一撃か。当たり所や個体差、まぐれかと思ったが」
「なんでもグラビティ・コアの影響らしいが。まあ、俺より詳しいコア子君を前にして講釈垂れるのは恐縮なんだが……」
オヤジは一度コア子を見て反応を窺がった。止めるでもそっぽを向くでもなく、すまし顔だった。
「恐らくダンジョン中枢にある、ないしコア子君が持ち歩いているであろうそのコアを操作できれば、重い敵を軽くしたり、浮かせ技が危険な敵には自分を重くして対処したり……実際触れた者はおろか目にした者も居ないから、あくまで傭兵同士で考えた、ぼくたちのダンジョン攻略アイディアに過ぎないんだがね」
楽し気なオヤジにコア子が水を差す。
「そう易々と扱って良い代物ではない」
そして首を巡らせ俺を見た。
「絶叫丸、おぬしはソシャゲで金の延べ棒をよく入手するであろう」
「ああ」
延べ棒一本、二本、三本といった絵柄を換金アイテムに採用するソシャゲは多い。
「すげえな」とオヤジがつぶやく。羨望の眼差しのおまけつきだ。俺はあいそ笑いを返して話に集中した。
「何本でも持ち運べる。実際の延べ棒の重さを考えればありえん話じゃ。しかしそれを可能にするのがグラビティ・コアなのじゃ」
「……」
「確かにダメージは2倍じゃ。しかしそれはあくまで延べ棒の重さ調整のしわ寄せに過ぎん。重い敵を軽くすることも可能じゃろう。その時はたして延べ棒は重くなるのか、軽くなるのか……そして、その勝手な操作の影響は全ソシャゲの延べ棒に波及しないとも限らない。下手すりゃ荷物持ちは両足骨折じゃ。だから易々と扱ってはならぬのじゃ」
「でっかく出たなあ」
「ふん、何かあっても困るのは作者じゃ」
「オチとしては弱いな~」