7.フロア1
薄暗い洞窟の天井には数匹の吸血コウモリが居た。
冬になり日没が早くなるにつれ、無灯火の自転車とすれ違うことが多くなるように思える。
その存在自体がただでさえ苛立たしいのに、すれ違う時に見るまったくもって悪びれた様子のない顔には怒り心頭である。
おそらくは彼らに負の感情を抱いている者は大勢いる筈であり、その対象となっていても気付かない、もしくは頓着しないのだから、よほど愚鈍か面の皮が厚いのだろう。
彼らのような傍若無人な者がいるのだから、転移初日に他人を斬りつけても平気でいられる主人公が居るのも納得である。
しかし無灯火は悪だと言って、根絶して良いものだろうか。
私は自転車に乗っている間、あれこれ文章を考えていることが多い。それは危険な悪癖であるのだが、問題はそこではない。
私は、乗車中に頭が良く回るのは、運転に集中することと有酸素運動によって脳が活性化されたためだと捉えていたが、プラスアルファが必要だったのではないのか。つまり無灯火に出くわすことによって、血圧を急上昇すべく、アドレナリンが分泌されていたからではないのか。
であるならば、彼らは私の恩人だったのである。
そんな連想をさせられる薄暗い洞窟と、作者の血圧を下げるにはおあつらえ向きの吸血コウモリだった。
内部を縦列で進み、オヤジは説明のために足を止めると俺が隣に来るのを待った。
「エリアは3ブロックに分かれていて、ザコ、ザコ、ボスの連戦になる」
「ソシャゲだなー」
「敵を宙に浮かせれば連続攻撃のチャンス。逆にコウモリみたいな奴らは、地面に叩き墜とせばいい」
「ゲームだなー」
「敵は午前5時に復活する」
「やっぱりソシャゲだなー」
ここで『ログインボーナスは?』などと思いついても、口を滑らせないのが賢明である。
はたして講師役を務めるジャックというオヤジはそういうおふざけを許すタイプなのか。
地雷というか逆鱗というか、講師という立場の人物とは適切な距離感を見極めるのが肝心だ。
はたして危険を冒してまでウケを狙う価値はそこにあるのか。
それがTPOを弁えられず、くだらない事、余計な一言を言わずにはいられない絶叫丸の処世術だった。