6.フロア1
翌朝、ダンジョンの入り口に三人で集まった。
まずは俺、絶叫丸。つぎに依頼者のコア子。トリは傭兵のオヤジ。
「なんでお前なんだよ」
「そりゃあ、剥いたカニ足を返してくれた時にフラグが立ったのさ。それと、俺のことはジャックと呼んでくれ。よろしくな」
挨拶を交わし「ちなみに……」とコア子が口を挟んだ。
「あの時、チョコの銀紙を剥いてくれていたら我のルートだったぞ」
「剥きポとかやめてくれ。チョロすぎんだろ」
「まあ、本題はこれだ」と、オヤジが俺にドライバーを手渡す。
「うっかり借りたままになってたからな。ありがとよ……だがな、よく見てみろ」
「……プラスになってる」
「そう、プラスだ……いいか? これは例のカニの半透明の腱に残った魔力を認識阻害に利用した、ぱっと見プラスに見えるマイナスドライバーだ。これなら捕まるまい」
よほど興味が湧いたのか。コア子が俺の手のドライバーを半ば強引に持って行った。
取り返されるのを警戒したのか、俺に背を向けて先端を触って確かめているようだった。
あまりの熱中ぶりに一つの懸念が生まれた。
「おーい、ダンジョンに見えない罠とかやめてくれよ」
「我はそれほど無粋ではない」
二つ目がでてきた。
「今更気付いたけど、ドライバーの先の磁石は平気なのか?」
「我はロボットではない。その辺は平気じゃ」
コア子が戻って来た。よほど気に入ったのかまだ触っている。俺はオヤジに向き直った。
(『ありがとう、Q』、『Jだ』なんて小ネタを入れると人気が出ると聞いたが、人の名前をわざと間違えるなんて暴挙、作者にはハードルが高かった)
「ありがとう、ジェイ」
「ジャックだ」
「……まあ、正直な感想言うぞ。その素材、もっと大事に使うべきじゃあ」
「まあ、そう言うな。いまは無駄に思えてもそのうち必要になるさ……『わしに通常武器の攻撃は効かん』」
「『だったらこいつでどうだー!』」
「みたいな、な?」
「先の展開ばらすなよー、やりづらくなる」
ひとしきりの砂を噛んだ笑いが収まると、オヤジが気を引き締めた。
「さてと、作者が割礼などと言い出す前に先に進もう」
オヤジは率先して槍を持ち直した。
「そうだな、この作品で担うにはテーマが重すぎる」
俺も武器を手にした。駆け出し冒険者らしく、日本刀を模しただけの粗末なものだ。
「まずはギルドの先輩から、ここでの戦い方をレクチャーだ」
「よろしくお願いします」
「実戦はゲームじゃない。言いたい事分かるか?」
「アイテムはケチケチすんな?」
「いや、仲間をオートで戦わせてのよそ見、多重プレーは厳禁ってことだ」
「しねえよ!」
「よし、敵の前まで進むぞ」