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21.香川の剣

 突然だが俺は今大男と戦っている。

 なぜか? ムービースキップしたからだ。


 俺は香川の高校生。俺には時間がない。

 香川は高校生ゲーマーにとって最悪の土地なぜなら香川は――


「ゲームは一日一時間」


 仲間の剣士が大男の攻撃を両手剣を盾代わりに防ぐ。

 いつものブラウザゲームを起動したはずがいきなりのバトル。肌から受ける感触と言いここは異世界って奴なのだろう。

 仲間の身長が190として大男はそれを頭二つ分優に超える怪物だ。

 全身フサフサの体毛に覆われ、その体毛は黒くさながら黒い雪男。といっても雪男自体を見たことはないあくまでイメージの話だ。


 体のあちこちにかつての戦いで奪ったのであろう体毛にからめとられた刀剣がぶら下がっている。さながら汚いクリスマスツリーだ。とそんな連想をしたが丁寧になされた飾り付けと一緒にするのはいささか失礼だろうか。

 俺の片手剣もこの忌々しい毛に数回奪われそうになった。


「燃やしちまえ!」と俺は皆に聞こえるように叫ぶ。背後には魔法使いが居る。炎魔法で毛をを焼けば戦いやすくなるだろう。


「駄目だ! 爆発する」と剣士。


「見ろ、いや嗅げ。傷口からガスが噴き出してきたぞ――うわっ! 話しかけるから気を取られて――」と両手剣が奪われた。


「ガスか」


 ガスに守られているならばそのガスを抜けばいい。俺は戦闘中に火花が散るのを何度も見たが平気だったことからそれほど可燃性は高くなのだろうと睨んだ。


「刺突で」と俺は剣を奪われないように慎重に、まずは太もも、次いで穴を塞ごうと動いた右腕と次々と穴をあけた。

 よどみない攻撃、なぜなら俺だけ三倍速で動けた。プレー時間が限られた俺はゲームは常に倍速設定。早送りはもはや癖だ。その習性が異世界にも生かされた。

 ゲームにおいて倍速は便利だがモノによってはフリーズの危険性が高まる。

 そのリスクを、ゲームの機能ならメーカー責任、異世界だったら自己責任と理解し許容した俺だけが、どうやら倍速の恩恵に与れた。


 周囲に漂うガス臭。大男がやせ細る。くしゅくしゅの手足はまるで潰しやすいペットボトルのそれだ。

 その枯れた四肢に残るのは骨だけか。つまりこいつはアンデッドなのだろう。

 燃やすまでもない。俺は背後の僧侶に叫ぶ。


「ターンアンデッドだ」


「えっ? そんなの出来ないよ」と随分遠くから聞こえた。みんなの気配が遠い、どうやら爆発を恐れて退いたらしい。

 内心舌打ちしつつ背後に叫ぶ。


「じゃあ交代だ。その鈍器で骨を砕け」


「ムリムリ、余計出来ないよ」


「じゃあ武器を貸せ、交換だ」


 俺は素早くメイスを取り上げ、代わりに片手剣を抜身のままに足元に寝かせた。

 まずは両足を狙い、くずおれたところを頭骨を粉砕し大男を倒した。

 剣士が得物の回収にかかる。その待ち時間にプロローグムービーを見てみよう。


 とある王国にわがままな姫がおりました。見かねた王様は甘やかせるのは良くないと姫を留学させることにしました。側近に化けていた悪魔がささやきます。


「香川がいいぞ。ゲーム規制……」


 姫にもささやきます。


「留学先は香川らしいぞ。またの名を涅槃の道場だ」


 涅槃という言葉の響きに恐怖した姫は大事な門の鍵を開け、悪魔が王様を連れ去るのを助けてしまいました。

 誤解だと気づいた――


 大筋を把握した俺は再生を止めた、要は王様を探せって事だ。違ったら続きを見ればいい。


「なるほど。ならば逆打ちだな」


「逆打ち?」とこの中で一番賢いであろう魔法使いが訊いてきた。


「お遍路に馴染みない奴に分かりやすく言うと88、87、86と逆にたどればどこかで出くわすってことさ――ははーん、この助言が欲しくて俺を呼んだわけか? それとも他に香川キッズが大勢召喚されているのか」


「どちらも違う。魂の呼応だ。毎日毎日厳密に一時間以内を順守する奇特で真面目なお前のストレスが呼びかけに応じたのだ」


「ってことは、マジかーみんな守ってねーのかよ――うっ」


 頭を抱えたところ背後から剣で胸を刺し貫かれた。見覚えのある切っ先、僧侶の裏切りだ。


 傷口から見る間に血があふれ出す。ダムの放流のごとく。剣を抜くまでも無い。倍速効果で勢いは三倍ス、おまけに豊富な海の幸のおかげで血流はサラサラだ。血しぶきに虹が掛かった。

 終わったなと俺は思った、誰もが思っただろう。


「父は私に香川に留学しろって。私はゲームがしたい。24時間ゲームがしたいのよ」と僧侶が言った。いや実は姫か、勝手に僧侶だと思っていた。


「安心しろ、香川キッズが法の撤回を求めている。みんなの想い、団結があれば」


「その訴訟にあなたが居たら困るじゃない。香川ルールを守るあなたは邪魔なのよ」


「安心しろ俺は悪い見本。ルールを守っても学力は向上しないという駄目な見本なんだ」


「そんな……ああ、なんてことを」


「安心しろ。俺は死なない。俺は生き証人だからな」


 霞んでいく視界で短い間の仲間を順に見た。彼らは俺の意を酌み姫への戒めを和らげた。


「でもどうしましょう。ルールが無くなってもお父様は留学を認めてくれるかしら」


「――


「ちょっと、消える前に何とか言いなさいよー!」

「そんなこと言わず香川に来いよ。お接待させてくれよ」


「キミ、もう死んでいるよ」


「えーっ!」

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