2.街並み
第2話は重要だ。
2話が終わるまでには前世の記憶に気付いたり、タイトルの無双パワーを身に着けているのが望ましい。
門の中に入った。自作品らしからぬスピーディーな展開。
道の両脇は売り物を軒先に並べた均一サイズの商店が並ぶ。それぞれが単色の日除け幕を張る。描画しやすい俯瞰風景は想像にも易しい……はず。
チューリップハットの男の子が右手に握った一本の藁を風になびかせて、振り返りながら走る。その背中に子分がついていく。
いや、違うな。描写効率に勝るのはこっち。リテイクだ。
街はハロウィンの飾りつけ一色だった。
男の子が泣きながら逃げていく。切断された自分の頭部を胸元に抱えた怪物少女が後を追う。
この描写ブレはソシャゲの季節イベントが一斉に始まったせいだ。ソシャゲとの片手間執筆の弊害だ。
「おい、止まれ」と声をかけられた。門で見た女だった。
「お前のおかげで、門の警備が乱れ、その隙に乗じようとした密輸犯を捕らえることができた。感謝する。褒美だ、受け取れ」
「ちょっと待って。プロットでは『お前のせいで職を失ったぞ。どーしてくれるんだー!』だろ。違うのか?」
それでPT加入の流れだった。
「はぁ? 何言ってるんだか分からんが、つまりはこちらの勝ちってことか?」
その判定基準は作者にも不明だ。
「ハイハイ。仲間にならなくてもいいよ別に。俺は先を急ぐ。じゃあな」
「待て。お前からは不思議な力、不穏な何かを感じる」
「俺か? 俺が持ってるのはチョコとスリッパ、メガネ、墨汁と……」
「いや、違うな」
「……ああ、これか。エターナル・△△からのエタ臭だな」
「△△?」
「そう、△△。エタ作者にじわじわ蓄積する”ザ・未完結”さ。実体がないし描写も無いから、キューブ、ストーン、ガントレット、読者の想像に任せるし、もし心当たりのある作者が奇特にもこれを読んでいるのなら自分の胸に聞けばいい」
「エタ、未完……そいつは登場人物にも悲劇だな。作者に込み入った事情があるなら別として、例の単語を人様に使うのは失礼だと承知で言わせてもらうが、もっと身の丈に合った――」
「分かってる、分かってるよ。プロットは出来てるんだ。ただ――」
「ただ、自転車に乗りながらあれこれ考えて、いざ家につくと書き起こしが面倒に?」
「書き――」
「書きやすい部分から手を付けて、残った部分が億劫に?」
「ああ、そうさ、そうともさ。だからこいつを処分しに来たのさ」
「指輪かよ!」