14.フロア2
その場でさらに仲間が二人増えた。大きな木槌で戦う大男と、もう一人は弓だったか僧侶だったか、記憶に残らぬ程に印象薄い人物だった。
加入した時の事だけは覚えている。俺が勇者に誘われた時、同行条件のあまりのハードルの低さに俺も私もと希望者が、はては子犬まで押し寄せてきた。その中でひときわ目立っていたのが件の大男だった。体躯が並外れて立派だった。
勇者は先代勇者に倣い5人組パーティを想定していた。ヒロイン枠を抜かせば4人。自由気ままな遊撃部隊として、別動隊との連携のわずらわしさを嫌った。駆け出しの時分で拠点を持つ気もなかったらしい。
彼らの中から選ぶべきか、一旦解散させるべきか、勇者はそんなことを思案しつつ、興奮しながら互いを牽制する彼らを両手を前になだめにかかる。皆が勇者の態度に望みありとさらにいろめきたつ。勇者の苦労はしばらく続きそうだった。
そんな集団を尻目に、俺はギルドカウンターに向かう一人の男に目を奪われた。男はカバンに右手を突っ込んでいた。
直感……男の挙動に怪しさを感じた訳でなく、昨日の股間の傷がうずいた。今ではそれが剣難によるものだと理解している。当時の俺は抜身の――たとえカバンの中でも不穏当な――刃物に過敏になっていた。
俺が声を上げようと息を吸ったその時、大男が不審者の頭めがけて槌を横薙ぎした。それは恐らく、勇者の元に集うにぎわいを、後に命を預け合う仲間になる存在だというのに我関せずとあらぬ方向を見ていた俺の視線に、単なる内定者の不敵な余裕とは異なる、ただならぬ何かを察知しての動きであろう。俺が声を発する間も、不審者が言ったであろう「はやく10万よこせ」とか「今日もらえなかったらここで死ぬ」といった台詞を発する暇も与えぬ無慈悲な一撃は、肩を巻き込み、側頭をとらえ、男を無人の壁へと吹き飛ばした。
その吹っ飛ばした男と吹っ飛ばされた男が新しい仲間であり、以来後者は刃物を持つことを禁忌とし、道理、剣難の俺にしてみればその反動で男に関する記憶が曖昧になるのは無理からぬ話なのだ。