12.フロア2
家にこもってだらけた生活を続けていると、体に異変が訪れる。
たとえば、股間がむずがゆくなったり。
俺の場合、気づけば股間の陰毛に小さなおじさんがいた。もうずいぶん昔の話だ。
おじさんはまずは足首を絡め取られ、もがき、かえって深みにはまっていた。
助けてくれとおじさんが言った。
「陰毛を生やしたままなのは世界的には、日本とインド位だぞ」
「嘘つけ! それは四月入学の話だ」
俺はまどろみの中、反論した。
おじさんのことは放っておこうと思った。眠たい意識の中、解き放たれたおじさんがスーパーマーケットで走りまわる子どもよろしく、はしゃぎまわる姿が容易に想像できた。
眠かった。もはや眠りかけていた。そもそもそれが動きたくない一番の理由だった。
おじさん自体、寝ぼけからの妄想だろう。それが仮に、股間に沸いたノミの類いの何らかの活動による刺激に誘発されたものならば、起きたらシャワーを浴びようとおもった。
俺は眠りに落ちた――九月入学、すなわち八月卒業が採用されれば、バレンタイン、すなわち二月、三月の時分に成立したカップルの、そのうちの早熟な者たちの仲は一体どこまで進んでしまうのだろうか。また、早期に振られたりなんかしたら先が長いぞ――と、そんなことを危惧しながら。
「いてえ!」
股間に激痛が走った。根元の左あたりだ。
一瞬で目が覚め、反射的に手を伸ばした。何かを捕まえた。小さなおじさんだった。
「自粛、自粛と今年は祭りをやってもらえんかったから、わしらがわしらの手でやるのじゃ」
「男根祭りか」
「いかにも!」
「いかにもじゃねえ!」
祭りのオブジェか供物やらに選ばれたのは栄誉な事か、はたまた無作為な徴発か。いずれにせよ怒りの感情しか湧かぬ。
俺は小さなおじさんの持つ、わすかに血がついた小さな日本刀を取り上げると、ポキリと二つに折り砕き、そのまま背後に投げ捨てた。
それが剣難の始まりだった。