11.フロア1
鞄を開けるとスリッパが半足、宙に飛び出しぺたんと着地した。
「ギルドで乱雑に扱われて、ここが裂けた痛みで、自我に目覚めたのさ」
「つくもがみってやつか」
「可哀そう。あとで仕立て屋に持ち込んで、ううん、連れてってあげるわ」とローがスリッパを撫でた。
「ありがとよ、お嬢さん。ゴミ箱から生還したものの、なんの因果か片足だけ。寂しいぜ」
俺はスリッパを観察した。
「……千切って捨てなきゃ駄目だな」
「おいおい人をパンティーみたいに言うな」
つくもがみ類を見るのは初めての経験だ。発声は半ばまで裂けた甲と底の左つなぎ目部分だったり、アニメ調の口が増設された訳ではなく、円形の品質表示シール部分からなされているようだった。
「俺の誕生日は製造日なのか、自我に目覚めた昨日でいいのか……やさしいお嬢さん。せめて俺に名前つけてくれよ」
「私? そうね、ゲルニカがいいわ」
「おいおい、俺はそんなに酷い事したか?」
「やれやれ、やった方はそう言うんだ。やられた方の痛みが理解できねえ。これがクツーって奴か靴だけにな」
「ねー」と50文字弱の嘆きに、すかさずローの1いいね。
「スリッパだろ」
俺は『ローがはぐれた一因はおまえにもあるぞ』と指摘しない自分は大人だなあと思いつつ、視界の隅に捉えていたコア子に顔を向けた。
「コア子、静かだな」
「ああ。おぬしは魔力を使わずに物に命を吹き込んだ。これがおぬしの力なのだとしたら……と、毒か薬か、敵か味方か、おぬしがここに来た意味を考えていた所じゃ」
「……特にないと思うよ。スリッパはもう出番ないだろうし」
「「言うなー!」」
(第一部 完)