10.フロア1
戦いが終わり、ヨロイ女が俺たちが到着する前に倒した挑戦者の手当てを始めた。
オヤジが槍を置き、外れて地に伏した扉を両手で垂直に立ち上げた。
「それじゃあ俺はこいつを直したら仲間を連れてダンジョンを出るよ」
「すみません……」と俺は手が離せないヨロイ女の分もうなだれた。
オヤジは律儀に扉を寝かせ直し、ポケットから何やら取り出す。
「そうそうこれ、重力補正デバイス。さっき作った」
「天才か!」
俺はオヤジのそばに寄って受け取った。
「これは扉の残骸から?」
「いや、砕けた床石の欠片からだ」
「通好みな答えだな」
コア子が興味を示すかと思えば、なにやら不快な顔をしていた。それにはオヤジも気付いたらしい。
かといって何も言わないところを見ると、使用に問題はないが、どちらかと言えば身近に置きたくはない程度だろうか。
「いや、俺は使わない。返すよ。枷を自力で克服してこそ修行だ……ちょっとブラック発言染みてるな。辛くなったらその時はよろしく」
俺はデバイスを手渡しで返して修理の助手に入る。内心コア子の反応を窺がう。
「ジャックや」とコア子が再度扉に手をかけたオヤジの背中に呼び掛ける。オヤジは作業の手を止め振り向いた。
「その量産、販売を許す。延べ棒に干渉せん限りにおいてだがな……我は手回しせんが、モンスターが対策して、結果手ごわくなっても関知はせん。何事も塩梅だとは言われなくても分かっておろうがの」
オヤジは「ははー」っと頭を下げた。
「今この時、人類とモンスターのいたちごっこが始まったのだと思う絶叫丸であった」
傭兵の手当てが済み、別れの挨拶も済ませたが、成り行き上オヤジがドアの開閉を確認し終え、仲間と立ち去るまでは三人で見届けた。
フロア2へと続く道を下り、いざ境目で、俺はオヤジの話題を口にした。噂話はついつい相手が居なくなるのを待ってしまう。
「しっかし、なんでジャックはカニ食べるの、下手だったのかなあ……賢いのに」
隣のコア子が答える。
「そりゃ、ニュートンと暖炉じゃ。そんなこともあろうて」
「ふーん。ちなみに重力とかけました?」
「おや、気づきました?」
「……」とヨロイ女。
「どうした? ヨロイ女。怒りのモスキート音なんかさせて。万有引力だなんてツッコミはやめてくれよ」
「やっぱり……なんでオッサンの名前知ってて私はヨロイ女なのよ」
「そりゃあ名乗ってないからさ」
「パーティー組んでプロフィール見なさいよ」
「そうだぞ」と間髪入れずコア子が加勢した。いつのまにかヨロイ女のすぐ横にいる。
「組んでおけば、はぐれることも無かったのじゃ」と仕様面から非難された。
「悪いけどプロフィール見たくないんだよね。非実在キャラの誕生日の……ソシャゲのバースデーガチャとかの商売っ気、あれイヤなんだよね」
「本人前にして非実在言うな!」
「そもそも商売じゃろうが!」とコア子に正論で怒られた。
「そりゃ商売だけどその過熱っぷりが怖いのさ。あまつさえ私の娘と同じだーなんて感激しーの勢いに乗っての重課金。それが仕組まれた頭脳戦だとしたら、ホントお可哀相な事この上ないぜ……まあ、駄目とは言わない。でも俺はキライって事で」
「……それなら安心しろ。私の誕生日は15月3日だ」
「じゅ……? 正直スマン。その日はみんなで祝おうな」
パーティーを組んだ。彼女の名前はローだった。
俺は何か話題でもないものかと、ついつい話を蒸し返す。
「にしてもギルドから入口につくまではもう一人の気配が確かにあったんだよ。もちろんジャックでなく……ここにコア子が居てさ」
左前方に左手を泳がせた。本当の話なのだが言い訳がましかったかなと少し後悔。
「そいつは俺様さ」と鞄の中から何かが蹴ってきた。