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十四話 Fの助太刀

 城に戻りエリックの姿で現状を報告しようとしたら、そのまま会議への同席を許された。と言うか陛下に連行された。アイリーンでは絶対にあり得なかったことだし、その場にいたアルバートも私の参加に目を丸くしている。

 初めて入る会議室は思ったよりも広くは無く、宰相や十数人の各省の大臣がテーブルについていた。


 視線が痛い。


 私だってどうして呼ばれたのか分からないのに、じろじろ見られて非常に居心地が悪かった。席は当然用意されておらず、壁の隅に立っているより他にない。


 フェリシア様は会議の場であるためか、普段話している時と話し方も声質も違う。王としての威厳を存分に発揮していて、私が男装する時に参考にさせてもらっている。


 議題は女王在位十年の祝祭を行うかどうか、だった。大まかな予算や過去の祝祭の例を上げ、国を挙げての大規模なお祭りを催す意見もあったが、フェリシア様がそれを止める。


「在位十年はそのまま夫の没後十年を表す。夫が為し得なかったものをどうしてわたくしに祝う事ができようか」


 女王が一言発して悲しそうに目を伏せれば、忠臣たちは何も言えなくなってしまう。前国王の在位は四年ほどで、元々体の弱い方であった。私にもうっすらとだが記憶がある。

 中でもフェリシア様と仲睦まじくお話しされていた姿が特に印象に残っている。今のアルバートから力強さだとか凛々しさを抜いたような優しい雰囲気の方だった。

 身罷られた十年前はアルバートもまだ幼く、即位後にもどうか伴侶をと言う声もあったがフェリシア様は頑なにそれを拒否した。今でも前国王を愛しているのは、ずっと身に着けている装飾品からも察する事が出来る。

 お互いに思いやる理想の夫婦像で、私もそうなれるものだとばかり思っていた。


 皆がしんみりとし始めた中、沈黙を破ったのは宰相だ。


「ですが陛下のお力を知らしめるためにも必要でしょう。十年ごとに善政であると国内外に示すのは伝統です」

「それは建国祭のみで良いではないか。私は夫の後を継ぎ、皆に支えられながらただ健やかに在れただけ。夫から託された国を傾けまいとただただ必死で、善政かどうかは百年後の人間が決めること」


 国王の在位期間は最長で四十八年、最短で二日。平均的には二十年前後だろう。だから、十年で記念祭を行うのは決して頻度が高いわけではない。良い結果になれば経済も活発になり民も活気づく反面、下手を打てば国家が傾く第一歩となる。

 ただ、陛下がどの時期に王位を譲るかになる。もしもアルバートが貴族学院を卒業と同時に譲るつもりであらば、祭りなど必要ない。もう少し長くいるおつもりなら、一度手本として見ておきたいものだけど……。


「エリック、そなたの意見を聞かせてもらいたい」


 は?私?これが王妃教育ならまず一言謝り「アルバート様に先にご意見を」が正解だ。でも今はエリック。どう答えた物かと考えていると宰相が先に口を開いた。


「陛下、恐れながら…わたくし共はその者をまったく存じません。かような場所で意見を聞くに足る人物なのですか?」


 はいはーい、宰相に一票。何故連れてこられたのか私にも全く分かりませーん。勉強だと言うなら見学だけで十分だし、それもアイリーンの姿でなければ意味が無い。

 フェリシア様が慌てることなく優雅に理由を言い始める。


「今回の議題においては、わたくしも前国王も経験した覚えがない。当然アルバートもだ。あなた達は二代前の国王で経験済みでわたくしの味方にはなり得ない。したがって味方になってくれそうな者を呼んだ。だって面倒くさ、いや、日々のまつりごとをきちんと行いたいから」


 本音出た。宰相ほか全員の胡乱な目が女王に刺さる。女王はそれを受けて茶目っ気たっぷりに笑った。

 ―――会議とは、政治とはもっと堅いものだとばかり思っていた。女王の仮面をかぶりながらこんなに肩の力を抜いた陛下を見られるなんて思っても見なかった。

 もしかして私、王妃教育で気負い過ぎだった?だからアルバートはあんなことを……


「では、エリックどの。ご意見を」

「よろしいのですか?」

「陛下のご命令だ。祭りを開催しない真っ当かつ適切で画期的な然るべき理由があるのなら、どうか教えてほしい」


 宰相が眉間にしわを寄せながら凄む。デューイよりも渋みを増した迫力が出ていて、しわには硬貨がたくさん挟めそうだ。


「大多数の国家ではおそらくは式典が行われるのみでしょう。それに……」

「式典はもっと嫌。だって堅いんだもの。続きを」


 フェリシア様のちょっと仮面が剥がれた横やりがササッと入る。


「アルバート殿下のご結婚も数年以内に行われるのならばその際の為にも規模の大きい物は控えるべきです。ですが、玉座を継ぐのが息子であれば在位はそのまま父親の没後ですから、前国王の没後を理由にする陛下よりも宰相殿の意見の方が理解は出来ます」

「ならば今すぐにでも玉座をアルバートに譲りましょうか。十年後に祭りでも式典でもどうぞご自由に」


 仮面が完璧に剥がれた。どうあっても祭りはしたくない様だ。突然の譲位の提案に宰相たちがどよめくのも無理はない。私は焦った。

 こんなポッと出の男が譲位の原因になってしまったら、宰相たちは地の果てまでもエリックを追いかけるだろう。それは、まずい。


「話は最期まで聞いて下さい。私はこの国で歴代の王がどのような祝祭を催して来たのか存じません。戴冠式の時の様に何か儀式のような物が必要ならばそれは行われるべきです。宰相殿、そのようなものはありますか?」

「……いいえ、ございません」


 女王がにんまり笑い宰相がぐぬぬと拳を握りしめて私を睨む。わーお、メガネなしデューイにそっくりだ。

 ふと思ったのだが、普通は逆ではないのか?祭りを開きたい王にそれを阻止したい宰相だったらわかるけれど。宰相が開きたい理由は何だろう。


 陛下をよいしょしたいから?うちの王様すごいんだ、見て見てーって。


 宰相がそんな事思うわけがないのに。何だろう、エリックとして動き始めてから色々な愛の形を見てきたせいか、変な見方をしてしまう傾向にある気がする。


 でも、陛下を尊敬しているのは私も同じ。十年の節目に何もせずにいるのは少し寂しいかな。もっともらしい理屈をつけながら、一つだけ提案してみる。


「玉座がただ一人で勤まるような物で無いことはどこの国でも同じであるかと思われます。労うために貴族のみで夜会または茶会を催してはどうでしょう。意図を事前に通達し装いは控えめにして、陛下も楽しめる様なものを開いて見てはいかがですか」

「そうね、それならまあ、妥協できるわ」

「やたらと予算を節約するのでなければ、まぁ……本当は国民に還元できれば良かったのですが、何も開かないよりは……」


 宰相はぶつぶつと文句を言っていたが最終的に決を取り、結局お祝いと法事、両方を兼ね備えると言う変わったパーティが城で開かれることとなった。最後に宰相が私を物言いたげにじーっと睨みつけて退場する。


「助かったわ、有難う。エリックのお陰で宰相の標的が分散できてよかったわぁ。最近やたらと突っかかってくるのよ、なんでかしら?」

「最後に睨まれましたね。俺が関わっているとなるとエドナ・イーリィの件しか思い浮かばないのですが……は、もしや黒幕っ?」

「普通に母上とエリックの仲を疑っているんだと思うが。それと、今回の案件だって母上が実は祭り好きだから宰相が気を回してくれたのでしょう」


 やっぱり愛か。恋愛ではなくてきっと敬愛の方。報われない愛って悲しいよね。


「アルバートったら、焼きもち?母が友達に取られると思って心配してるの?可愛い~」

「違いますよっ、年の差を考えて下さい!」

「前国王が『父上』だから俺の事は父様って呼んでいいんだぞ」

「いや止めてくれっ、本当にっ頼むからっ!」


 フェリシア様と一緒になってアルバートをからかうのは楽しい。アイリーンの時には本当にそんな余裕が無かった。立派な王妃にならなくてはとガチガチの価値観に凝り固まっていた。

 今日の会議でそれが理解できた。敵は確かにいるかもしれないけれども、人はその一面しか持っていないわけではない。フェリシア様も、宰相も。

 婚約破棄したアルバートもからかわれているアルバートも同一人物だ。切り捨てられたからと言ってこちらからも切り捨てるのは簡単だけど、全てでそれをやっていたら私の周りには誰もいなくなってしまう。


 フェリシア様の周りにはたくさんの人がいる。敵に見える人ですら、離れずにずっと傍にいる。

 多分、そういう事なんだろう。


「あれでも昔は優しい顔をしていたのよ。私が嫁ぐと決まったら猛反対してね。『苦労するのが分かっているのに大事な従妹をやれるか』って最後まで反対していたの。もてる女は辛いわぁ」

「母上の武勇伝は何度も聞きました。今でも懸想しているのではないのですか」

「恋心と政治は別物よ。あの人もまだまだね。……二人とも、今のうちに存分に成長しておきなさい」


 フェリシア様はまるで二人とも息子であるかのように、左右の腕で一人ずつ抱きしめた。

 

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