ご利用は計画的に
金は人間にとって血であり、命である。
アンティファネス (詩人)
この世の中、金がすべてだ。
金さえあれば大抵の事はできる。
あぁ、金が欲しい・・・。
私はそんな事を考えながら、
真夜中の誰もいない公園でベンチに座って煙草を燻らせ
煙草から流れる紫煙を目で追っていた。
煙草の煙を眺めていると目が回ってきた・・・。
私は疲れているのかもしれない。
帰って眠ることにしようとベンチから立ち上がろうと思い
ふと、目の前を見ると夏だというのに黒いコート
を身に纏った見るからに怪しい男が立っていた。
「お困りのようですね」
黒コートは確かにそう言った。
「分かりますか?」
「えぇ、貴方から負のオーラが出ています」
「負のオーラ?」
「まぁ、その話はいいでしょう。とにかく、貴方はお金に困っている
そうではありませんか?」
「そうですが・・・もしかしてオーラから読み取ったんですか?」
「まぁ、そんなところです。これを貴方に差し上げましょう。
今の貴方にはきっと役に立つはずです」
そう言いながら黒コートは小型の黒い金庫の様な物と小冊子を私に渡した。
「これは何ですか?」
「貴方のお悩みを解決する道具ですよ」
「まさか、この箱からお金が出てくるとか?」
「まぁ、そんなところです。では、私はこれにて」
「ありがとうございました」
「いえ、お気になさらず、それでは、またお会いしましょう」
そう言うと黒コートは目の前から消えた
本当に煙のように消えたのだった。
私は夢を見ていたのだろうか?
やっぱり、疲れているのかもしれない…。
だが、黒い箱と小冊子は確かに手元にあった。
私は家に帰り、小冊子を見ながら早速、試してみた。
使い方は簡単だった。
自分が欲しいと思った額を箱に向かって念じる。
すると目の前に金が出てくる。
私は箱に向かって念じた。
おかげで私の生活は見違えるほど裕福になった。
結婚もした、可愛い娘にも恵まれた。
それにしても金に余裕のある生活が
こんなにも素晴らしいとは・・・。
しかし、素晴らしい景色も見慣れれば飽きる。
そう、裕福な生活も慣れると案外つまらない。
不安な事は何もない、金で大抵の事は解決する。
ある程度は思い通りになる。
でも、あの頃とは確実に何かが違っていた。
得る物もあれば、失う物もあったという事か・・・。
そんな時、あの黒コートの事が頭をよぎった。
そういえば、あの小冊子を全部読んでいなかったな。
使い方しか読んでいない。
その時、妻が血相を変えて私の書斎に入ってきた。
「どうしたんだ、この世の終わりのような顔をして」
これは私なりの冗談のつもりだった。
「あなた、娘が・・・」
その時、これは本当に、この世の終わりなのかもしれない
と、思った。私の命よりも大事な愛娘に何かがあったのだ。
「どうしたんだ?娘がどうしたんだ!」
「誘拐…今電話があったの…3億円用意しろって・・・」
妻はイタズラだと思い娘の携帯に電話をしたのだが、
聞こえてきたのはかかって来た電話と同じ声だった…。
これはイタズラなんかじゃない、本当に誘拐されたのだ…。
金で解決できるのなら何とかなる・・・。
「お前は警察に連絡をして来なさい、その間に私が何とかするから」
「あなた…お願い・・・」
そう言いながら妻は今にも倒れそうな姿勢で書斎から出て行った。
それを確認した後、私は金庫から、あの黒い箱を取り出した。
そして、念じた・・・。
しかし、金は出てこない・・・。
目眩を感じながら目を瞑り強く強く念じた・・・。
そして、目を開けると、金ではなく
あの黒コートが現れた。
「3億円ですか?それでは限度額を超えてしまいますよ
付け加えておくならば今の貴方に融資できるお金は一円たりともありません」
「限度額?融資??何の事だ…」
「ご利用のしおりを最後までお読みになっていないのですか?」
「あの小冊子か?」
「そうです、そのしおりの最後に誰にでも分かりやすく書いていあるはずですが」
呆然とする私に対して黒コートは微笑みながら続けた。
「まぁ、どちらにせよ貴方はもうすぐこの世からおさらばするんですがね、
では、冥土の土産にしおりの最後をご覧ください」
私は小冊子の最後に小さく書かれた文章を見た。
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(了)