黄昏メイド
夕陽に染まる公園で気を失った男を足元に置いたまま、レイカは腰の抜けていたルナの手を引いて起こす。
「で、なにかコイツを縛るためのモンを持ってないか。 ロープでもなんでもいい」
「あ、ありません。日常的にロープを持ち歩く女子高生なんて聞いたことありませんよ」
「……それもそうか」
どうするべきかと悩んでいたところで、突然ルナの目の前の空間が歪んだ。
「ご無事ですかっ! お嬢様!!」
「しっ、シオン?!」
「オジョウサマ?」
歪んだ空間から飛び出したのはメイド姿の女性。
女性はルナを庇うように、俺の前で構えの姿勢を取った。
「オイオイ何だ」
「お嬢様に危害を加えるのは貴様か!! 殺す!」
「待て、展開が急――」
突如背後に感じた気配。ルナの目の前にできたような空間の歪みが背後に現れる。
危険を察し、振り向き様にアマテラスを再び顕現したと同時に、短刀がレイカの首筋を掠める。
ルナが『シオン』と呼んだメイド姿の女性は、一瞬でレイカの背後に回り込み、短刀を抜いていた。
レイカは大きく仰け反り、距離を取りながらアマテラスで短刀を払う。
「――チッ」
「甘いな」
軽い挑発を交えながら、レイカは状況把握を試みる。
水面から出てくるように、空間の歪みから現れる……瞬間移動ってヤツか。厄介な技だ。
「次は外さない……!」
「……やってみやがれ」
再び空間が歪みはじめ、シオンの姿がぼやける。
来る――
「――!!」
突然、消えかけたシオンの身体にルナがしがみ付いた。
シオンも想定外だったらしく動揺していた。消えかけていた身体も元に戻っている。
「お、お嬢様?!」
「待ってシオン! 誤解です! その人は私を助けてくれた方です!」
「……ぇ?」
ルナの言葉を聞いて、シオンが唖然とする。
「私がここでローファルの男に襲われたところを、この方が助けてくださったんです!」
「コノオトコガ……オジョウサマヲ……タスケタ……」
シオンの身体が硬直する。
シオンが状況を理解したのを察したルナはゆっくりと手を放し、一歩下がる。
「…………」
シオンは真顔で、眉一つピクリとも動かさずレイカを見る。
ロボットさながらの機械的な動きで身体をレイカの方へ向き直らせ、その場にそっと両膝をつき。
「もうッッッしわけございませんでしたァァァァ!!!!!」
全力で土下座をした。
頭を擦り付けた地面は、小さなクレーターができるのではないかと懸念されるほどにえぐれている。
「いや」
「ご無礼をお許しください、お嬢様をお助けくださり誠に感謝しております」
「そんなに謝らなくとも」
「いえ許されることではありません、この命で償わせていただきます!」
「もうそれくらいにしなさいシオン。神崎君が困ってます」
短刀を両手で持ち首元に構えたシオンをルナが慌てて止める。
「シオンが失礼致しました。そして助けてくれてありがとうございます、神崎君」
「俺が勝手にやったことだ。気にしなくていい。……ところで、尋ねたいことがある」
「奇遇ですね、私もお話したいことがあります」
レイカとルナの言葉が揃う。
「「シキについて」」
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どちらにせよやる気になります。