次男の時
次男のは、長いです。
次、次男。
次男は長男の時みたいに悠長な妊娠ライフなんてしてられません。
なんせ長男は私の妊娠なんて知ったこっちゃない。やれ、抱っこしろ、公園行こう、自転車の練習に付き合え、とにかくじっとしていられない。
ま、二人目の妊婦なんてそんなものだと思います。最初の、安静にー、大事にー、冷やすなー、食べろー、がなんだったんだろう?っていう感じ。
抱っこだって、大きくなったおなかの上に乗っけるもんね。めっちゃ圧迫されてるよ。
走るなって? 鬼ごっこ付き合えってなったら小走りはやるよ。自転車の練習なんて、手を放したら怒るし長男は下手くそだったから、長男と自転車を中腰で支えつつ走る。
晩御飯に大根がいるから、ちょっくら抜いてくるかって、長男おんぶして畑まで行って(一キロもないけど、ちょっと離れてる)抜いた大根ぶら下げつつ、またおんぶして帰る。
そんなこんなで、ぎゅーぎゅー、お腹は張るけども、そんなに痛くはないしちょっとじっとしてれば治る。へーき、へーき。病院で検診を受ける度に安静にって言われるけど、無理だよねー。
それでも妊娠中期まではまあ、良好だったんですよ。医者の顔は渋ーいものでしたけど。
そんなこんなで8ヶ月後半の検診がきました。
「赤ちゃんの体重が増えてないね。お母さんが食べたものが赤ちゃんにいってない。少しでもいいから横になるようにしなさい」
いくら栄養があるものを食べても、安静にしてないと私に肉がつくだけで、赤ちゃんに栄養が送られないそうだ。
ええ。私に肉なんていらない……。
子宮口も開いているし、赤ちゃんも下がってる。その時はもうすぐ妊娠9ヶ月。赤ちゃんの体重は1800グラムくらい。今の医療なら十分元気に育つけれど、10ヶ月まではお腹にいた方がいい。
そうは言われましても、私が寝転ぼうものなら長男はそこに山があるから的な感じでよじ登るし。お腹の上で乗ってぴょんぴょん跳ぼうとするし。
長男はすっごい手がかかる子だったし、私以外の人だと駄目でね。癇癪のスイッチとか入ると一時間くらい平気で泣きわめくし。
結局普段通りに過ごしてたわけです。飲み薬はなんか大量に出されましたけどね。
が。
検診から数日後、夜中に「痛ーーっ!」と目が覚めた。
陣痛。それも、結構痛いやつ。冷や汗をかきながら、時計を確認。三十秒くらいで治まった。
やばい。本番か?いやいや、次のやつがどれくらいでくるよ?
三十分後、きたー!痛い、痛い。また治まって、次は十五分後。
ドキドキしながら、次を待つけど、一時間くらいしてもこなかった。
なんだ、まだ平気。って朝まで寝ました。
翌日、朝起きても普通。なーんだ、大丈夫。
ところが、この日の夜にも不規則な陣痛。めっちゃ痛い。ぎゅーっ!と絞られてまた冷や汗。でも、翌日はけろり。また夜中に陣痛。
1ヶ月間、毎晩、陣痛がきました。寝られやしねぇ!
病院行くべき?ま、検診の時に言えばいいや。
次の検診の時、またもや苦言と薬をもらったものの、毎夜の陣痛に耐えつつ、10ヶ月までもたせました。
まあそんな感じなので、旦那からいつ産まれてもおかしくないんだから、畑に行くときは携帯を持つようにと言われてました。畑は家から遠いし、誰もいないことが多いからと。
でもね、時々忘れるんですよ。というか、ちょっとだし、まあいいかって思う。
その日も持っていかなかった。散歩がてら夕飯ように大根を二本抜いて、両手にぶら下げて、例のごとく長男が「おんぶ!」と言ったので、はいはいとかがんだその時。
痛ーーーい!
夜中と同じくらいの陣痛。昼間にきよった!
「おんぶ!!」
中途半端な姿勢で止まった私に、長男はご立腹。だがしかし、声が出ません。冷や汗かいて何も言えん私に、さすがの空気読めない長男もちょっと待つ。
まずい。誰もいない。携帯持ってくればよかった。後悔先に立たずぅ。
一分ほどの沈黙。
よっしゃ、治まった!今のうちに帰るべし!
長男をおんぶして、大根を両手にぶら下げ早足。しかし、坂の途中でまたきたー!しかも。
なんか破れたような感触がした。これは覚えがある。ブチッというか、バリッというかバシーン、て感じ。一番外側の膜が破れた感触だ。
ってことはまだ破水じゃないね。(破水はもうひとつ内側の膜が破れたとき)
おんぶして大根持ったままフリーズ。なんで二本も抜いたかなあ!重い。邪魔。
そんなことを考えて痛みを紛らわす。
動けと騒ぐ長男だけど、また私の様子を見て黙る二歳児。
治まったらまた歩く。またくる。長男が騒ぐけど私の顔を見て黙る。リピート。なんとかかんとか、家に帰りつく。
やれやれと座って休んだら、陣痛の間隔がまた開き始めた。
あれ?まだこれ大丈夫じゃない?
ってんで、一応お義母さんに陣痛が始まったとだけ言って、長男と砂遊びやってから晩御飯の支度。
ご飯作ってる時に一回きたけど、まだましなやつ。よーしよし。まだいける。
晩御飯食べて、風呂の用意。なんせ出産したらしばらくゆっくりお風呂に入れないことを知っている。そして、陣痛きたからってすぐすぐ産まれないってことも。
今から思えば、一人目と二人目は違うんだから、はやく病院行けば良かった……。
入院の荷物だけおいて、長男とお風呂へ。これが失敗。
お風呂に浸かってあったまった途端、陣痛きたー。しかも、やばい痛さのやつ。
うおおおぉっ、風呂の中で冷や汗と後悔。まさか、風呂で出産してしまうのかぁ。
なんとか上がったものの、まだ旦那は帰らないし、まったりしてるお義父さんに遠慮してもう少し我慢。
そんな私にお義母さんが気がついた。
「ちょっと、〇〇ちゃん、痛いんじゃない」
「あ、はい。ちょっと痛いです」
冷や汗だらだらかきながら、笑う私。ちょっとじゃなかったけど。
すぐにお義父さんが病院に連れていってくれました。
病院に着いて診察室に向かうまでも何度か陣痛で止まりつつ、診察台へ。その時は子宮口、ほぼ全開。
陣痛はもう、痛い、痛い、強い、強い。
診察台の上でも陣痛が来る私に、
「あ、これいい感じ。今すぐ生まれますよ」
と、看護婦さん嬉しそう。
先生が来るまでちょっと待って下さいねー、と陣痛の合間に分娩室へ移動してから置いて行かれたけど、待てん!力みを逃がすのに必死だよ。でも「はい」としか言えない。
しばらくして旦那到着。しかし旦那、長男の時みたいに時間がかかると思っていたので、コンビニ弁当持ってのんびりきた。いきなり雰囲気の違いにびっくり。
先生も来て、診察。
「もう、いきんでもいいですよ」
やったー、やっといきめるとほっとした。もう、この状態になれば長男の時は、2、3回凄い陣痛に合わせて力を入れたら産まれたんですよ。今回もそうだと思うじゃないですか。
「ううううううーーーーっ!!!」
強烈な痛みに合わせて力を絞る。痛みが引き始めたら、手を広げて、呼吸を浅くして、力を抜く。
「おや?」
なんですか。その疑問符は。
「へその緒が短いね」
「えっ!……つまり、どうなるんです?」
このままだとへその緒が短くて赤ちゃんが出てこれないらしい。
「大丈夫。ちょっと時間はかかるけど、いきむ度に少しずつ伸びるから」
まじか。この全身の力を絞るやつ、続けなきゃだめってことか!?って、きたーー!
「ううううううううーーーーぅ!」
ちなみに、私の場合は「あ」よりも「う」の方が力が入ります。陣痛が引いて力を抜くときは口を開けて「あ」で力を抜く。
はっきり言って、力を入れるより、この力を抜く作業の方が難しい。でもこれをやらないと赤ちゃんが酸欠になるし、次の陣痛に備えて少しでも休めないと。
それから何回、いきんだか分からない。途中から何も考えられなくて朦朧としてました。
「へその緒さえ長かったら、もうとっくに産まれているのにね。しんどいね。頑張って」
看護婦さんと医者がそんな感じのことを言ってくれてたけれど、そんなことよりどれくらいで必要な長さに伸びるんだろうと、ぼんやり思うだけ。何か言う余裕がない。
旦那が真っ青になってたのがぼんやり見えた気もする。そういえば旦那は余りの修羅場に貧血を起こして途中、退出してたんだった。でもいつの間にか戻ってきてくれてた。それもうろ覚え。
陣痛の痛みって、普段のリミッターを外すためのものなんです。痛みでもなきゃ、あれだけの力を出せない。それでも何回目かのいきみで、限界がきた。痛みの力を借りて、普段出せない力を振り絞るとはいえ、かき集める力そのものがなくなってしまう。
「ううううううううーーーーぅ!」
やばい、あと一回くらいしか力が残ってなさそう。
力を入れる時は拳を握り、抜くときは開くんですが、最初は意識して開かないと力が抜けなかったのに、今は勝手に開く。痛みがないと拳を握る力もない。体からも勝手に力が抜けて、どっちかというとぐったりだけど、次に備えてちょっとでも回復しなくちゃ。
「ううううううううーーーーぅう!!!」
この一回で産めなきゃヤバイ。力という力をかき集めて振り絞る。
ずるりという感触。
産まれたぁ。よかったー。力尽きる前で。
しかし産声がほとんど聞こえず。赤ちゃんもへとへとに疲れていたらしい。健康なので問題ないと聞いて一安心。
その後、赤ちゃんを抱っこさせてくれるのですが。腕に力が全く入らない。抱けない。
ホントにへとへとな出産でした。
私のへーき、へーき、をあまり鵜呑みにしないで下さいね。
私はとても楽観的で健康体だっただけです。
妊娠、出産は何が起こるか分かりません。
くれぐれもお腹の赤ちゃんと、ご自分の体をお大事に。