オリーブの木の下で
ーー
昼からは他の皆と一緒に訓練を受けることにした。
ロッドに付いてもらい弓の練習をした。
「これはな……こうやって…………こうだ」
軽々と飛ばした矢が的の中心に突き刺さった。
「やってみる。しゃー……フンッ…………とりゃー」
サンサの放った矢は的にすら届かなかった。
何回やっても結果は変わらなかった。
「クソッ!……なんでだよッ……」
サンサは弓を思い切り握りしめている。
汗が地面にぽとぽとと滴っている。
悔しそうなサンサを見て、
「こんなもん慣れだ、最初から出来るやつなんて滅多にいないよ。まぁ一つアドバイス出来るとしたら体の力を抜くことかな……急がす気長にやっていこうぜ!」
ロッドが笑いながらサンサに矢を1本渡した。
その後も一本も的に刺さることなく太陽が落ちた。
兵舎に戻ると遠くから誰か分からないがこっちに手を振っている人影が見える。
誰だろうとサンサが目を凝らしているとその人影が近づいてきた。
「サンサくーん、覚えてる?」
花のように可憐なその姿は昨日の夜に声を掛けてきたコリア・スポットだった。
「あっ……ああもちろん覚えているよ……コリアだったよね……」
サンサがどぎまぎしながら答えた。
「うん!そうだよ!今日はね……ジャーーン!」
コリアの手には他の兵士達が着ているのと同じ服が握られていた。
「サンサくんの制服でーす!本当はバーン副兵士長が渡すはずなんだけど昨日のことがあったからかな?私に『これをサンサに渡してこい』って言ってどっかに行っちゃった……ってことではい、どうぞ」
薄い茶色が基調で背中側に大きくファンメルのシンボルマークであるオリーブの葉と実が描かれていた。
「うんうん!これで晴れてサンサもファンメルの兵士の一員だね、おめでとう!」
コリアが眩しい笑顔で言った。
「う、うん…ありがとう」
サンサは少し赤くなっていた。
「じゃあまたねー」
コリアが兵舎の奥の方へ戻っていった。
コリアと話しているとなんだか楽しい気持ちになる。
弾むような気持ちで部屋に戻るとドアの向こうから何か声が聞こえてきた。
「………いいか……何があってもサンサにだけはバレないようにしろよ」
ロッドの声だった。
「ったり前だろ……いくら俺でもそんなことはしねーぜ」
フルトの声だった。
「う…うん……」
ホイルズの声だった。
しばらくサンサは部屋に入ろうか迷っていた。
迷いに迷っていたが、ついにドアノブに手をかけた。
ガチャリ……その扉の向こうにはフルト、ロッド、ホイルズの3人が不自然なほどバラバラに座ったり寝転んだりしていた。
サンサは3人が何か隠しているような気がしてならなかった。
いいや、何か隠しているという確信があった。